珍しいものを見て反射的にシャッターを向けるのは今に始まったことではない。だから、本の帯に書いてある「心のフィルムにだけ残しておけばいい風景が時にはある」を目にした一瞬ギクリとした。実際写真に関する記述が中盤までないものだから、著者が写真家であることを忘れてしまっていた。
大自然を慈しむ眼差しや文章から、筆者の優しさが伝わってくる。ちょびっとだけディズニー映画の『ポカホンタス』を思い出した。
遠いアラスカに思いを馳せ、ぬくぬくマイペースに読み耽るのもまた格別♪ 場所が極寒のアラスカでも著者の温かい心はひだまりを作っていたんだろうな。
ポトラッチ(「インディアンの世界における御霊送りの祝宴」)は日本のお盆とは一線を画すレベルで、自然界・霊界との共存を深く意識しなければいけなかった。あの時ムースが現れたのも必然としか思えない。
イヌイット語の豊富な雪の表現にも不思議な感覚を覚えた。日本語にも雪の表現は沢山あるが、イヌイットの方がより自然界・銀世界に溶け込んで聞こえる。それらは静かに、でも確実に、自分の記憶にも足跡を残してくれた。(著者の優しい詩的表現に影響されまくっている笑)
死を覚悟するような言葉もところどころで顔を覗かせる。猛吹雪の中をテントと持ち堪えたり、グリズリーと対峙したり。ひだまりの時とはまるで正反対で、生きるイコール真剣勝負なんだと改めて身が引き締まった。
「ひっそりと消えてゆこうとする人々」はもう本当にいないのか。虚しい気持ちで満たされる前に著者の言葉を書き残しておく。
「1年に1度、名残惜しく過ぎゆくものに、この世で何度めぐり合えるのか。その回数を数えるほど、人の一生の短さを知ることはないのかもしれない」
そういうものにこそシャッターを向けるべきでは?って少し前なら思ったはず。「心のフィルム」に焼き付ける方が案外鮮明に残ってくれるものかもしれない。めぐり合うのが歳をとってからだったとしても。
- 感想投稿日 : 2022年1月22日
- 読了日 : 2022年1月22日
- 本棚登録日 : 2022年1月22日
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