竜の卵 (ハヤカワ文庫 SF 468)

  • 早川書房 (1982年6月1日発売)
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本棚登録 : 563
感想 : 51
4

独自のアイデアと地に足の着いた科学考証で良質のSFになっている。ただメインテーマがチーラの種族発展の歴史書みたいな感じなので、SFとしての味が薄い気はする。

科学方面で気になったこと:
・中性子星の地殻原子の成分について。小説で書かれていたような多彩な物質が成立するだけの自由度が本当にあるのか?
・表面重力670億Gだと時間の遅れが20%ぐらい発生しているはずでは?なぜ言及がない?
・1/5秒周期パルサーの近くで観測したり船外活動するには、パルサーの放射する電磁波への防護が足りてない気がする
・モノポールを打ち込むとなぜ小惑星が収縮するのか、説明がいっさいない点。そもそもモノポール自体の質量はどこから調達したのかもよくわからない
・チーラの神経活動は何を媒介して成立しているの?人間のような神経電位を使った神経系は成立しないと思うのだが
・個人用に比較的小さい重力を携行すればチーラは中性子星の外でも生きていけるという描写が非現実的に感じる。重力を弱めていったとき、体内の器官は膨張していくはずだけど、その膨張率は組織ごとに一様ではないはず。強くも弱くもない重力のもと組織が破壊されて死ぬだけでは
・あとマイクロブラックホールは小さすぎるので潮汐力が大きいから、いかなチーラでもこれを携行したまま生きてるのは難しいよね

文化的な方向で気になったこと:
・蒙昧な時代を通してさえ、チーラは賢明すぎる。理想的な発展を遂げすぎ
・もっと暗黒の魔女裁判の時代とか、王朝が10年単位で変わって破壊される時代とか、宗教が科学の邪魔をする時期とか、他国を植民地下に置いてはあとの時代への禍根を残しまくる大英チーラ帝国とかが必要なのでは
・海洋も大陸も存在しない平坦な地理においてこんな多様な文化文明が育つものか?
・逆にチーラ側言語が最初から1つしかないのも変
・人類はその知識を無分別にチーラに与えすぎ。ふつう文明への影響を抑えるために積極的な干渉は控えるようにするはず
・人類知識がもたらされる以前からチーラが英語の名前を名乗っているのは不可解(例;グレート・クラック → 単位グレート → 人間側書物にもグレート巡の記載)
・帝国が星の全土を支配したらそれ以後は完全に平和っていうのは冷戦構造崩壊後の世界を知らないSF作家の想像しうる限界ということだろうか。内戦の時代に突入するだけだと思うのだが
・核エネルギー(中性子星の上では反応兵器とか?)の知識を入手したチーラはその知識を外部に秘匿しつつ核武装をすることで軍事的優位を維持するよね?え?しないの?いきなり全星に公開しちゃうの?なぜそんなに性善説に立てるの?
・人類の与えた科学知識、中性子星上でも適用可能なものがいったいどれほどあるのか不明
・終盤になるとチーラが人間側の単位を普通に(秒とかミリメートルとか)使ってるのがおかしい

まあ気になるところはいろいろあるけど、多分これはひとつの思考実験本なんだと思えば、良いのではという気もする。
人間のスキャン活動がチーラにとって神と誤認されたり性感を与えたりっていうのはけっこう面白かった(架神恭介あたりにパロディさせたらいいかんじのバカSFができそうだ)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF
感想投稿日 : 2019年2月27日
読了日 : 2019年2月27日
本棚登録日 : 2019年2月27日

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