「文化力」の時代――21世紀のアジアと日本

著者 :
  • 岩波書店 (2011年12月23日発売)
3.50
  • (1)
  • (0)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 33
感想 : 7

文化立国に向けて具体的提案がいっぱい《赤松正雄の読書録ブログ》

 「文化と文化交流の重要性を新しく生じてくる現象や問題に触れながら考察し論じた」とされる青木保『「文化力」の時代』。これは、『アジア・ジレンマ』以来、約10年ぶりの待望久しい論考集だ。この間、07年から09年の間、文化庁長官を経験されたりした。かつて、タイ・バンコクで僧侶として修業を半年間積まれた。その体験をもとにした記述にはやはり迫力がある。

 「社会主義や共産主義といった大きな幸福の追求が、(中略)宗教、信仰、修業といった幸福の追求を禁じたことによって、それこそきわめて物質的即物的な形での欲望の充足しか目標としない社会を現出」させた、との記述は中国に向けられたものであると同時に、資本主義国家日本にとっても身に覚えなしとしない。「東アジア型発展の行き着くところ虚無と非人間の黒々とした深淵が待つ」が、「南アジア型発展は、宗教の大きな幸福の追求と日常の人々の小さな幸福の追求とが社会的文化的人間的な緊張関係を失うことなく存在する」とされ、東と南の対比はまことに示唆に富む。

 青木さんは南アジア型発展の類型はこれから全世界的規模で見習う必要があるとされている。タイのこれからには、今は称賛されているものの、注意してみなければならないだろう。この辺り、前回取り上げた「釈迦仏教」についての佐々木閑さんの見方と相通ずるところがあるのは興味深い。東アジアのみに目を向け、南アジアを遅れてきたるところと規定しがちな現代日本人としては、大いに反省する余地があるかもしれない。

 明治維新から80年間を「富国強兵」一筋に歩み、敗戦後の今は経済至上主義(「富国強経」とも)の旗印のもとで経済一本槍で進んできた結果、大自然災害の波状攻撃で日本は今奈落の底に沈みつつある。これを立て直すには、経済だけでなく、抜本的な社会のありようを見直す必要があろう。国家の目標を文化・芸術立国、人間教育の確立をめざすところにおくべきと私は考えている。青木さんもこの本の最終章で文化、芸術による国作りの必要性を訴えておられ、我が意を得たりとの思いが強い。

 しかし、予算規模にしても具体的なソフト充実の展開やら、ハード部分の構築などでも欧米だけでなく、中国、韓国など他の東アジアの国々にさえ日本が遅れをとっている事実は否めない。小泉内閣時代に内閣府が中心になり、青木さんが座長になって「『文化交流の平和国家』日本の創造を」といった報告書をまとめられ、提示されていながら、その後はさしたる前進を示していないのはどういうことだろうか。改めて国会に身をおくものとして、文化政策を充実させることを決意させられた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2012年4月20日
読了日 : 2012年4月20日
本棚登録日 : 2012年4月20日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする