ココの詩 (福音館創作童話シリーズ)

著者 :
  • 福音館書店 (2016年10月10日発売)
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本棚登録 : 178
感想 : 14
5

 一九八七年刊行、高楼方子さんのデビュー作。二〇一六年の復刊版を読んだ。短いあとがきに、復刊にあたっての言葉がある。絵を描かれている千葉史子(ちかこ)さんは方子さんのお姉さんだそう。
 そんな情報はどうでもいいくらい、すごい。
 
 「意味不明、ついていけない、なんてもの読まされてしまった」と思う人と、「最高、大好き、私の人生の一冊」と思う人とに分かれそうな作品だ。私はどちらかといえば後者で、今とは違う時期(例えばもうちょっと若い頃など)に読んでいたら、自分が銅鑼になって打ち鳴らされたように人生に響きまくって、「人生の一冊」として心の神棚に祀っていたかもしれない。しかしこうも思う、またそれとは違う時期(例えばもっと若い頃など)に読んでいたら、びっくりして、この人の本は合わない気がするからもう読まないでおこうと思ったかもしれない。
 人形の女の子ココがあるとき突然意思を持って部屋を抜け出し、ネズミやネコと出会って大冒険を繰り広げる物語。このまとめ方で何も間違ってはいないのだが、大冒険の内容はかなりハード。
 ヤスという切れ長の目のネズミに出会ってしまったことが全ての始まり。ディズニーアニメでいうと、『ラプンツェル』のフリン・ライダーであるとか、『ズートピア』のキツネのニックであるとか、ああいったちょいワルお兄さんが出てきて、純なヒロインとはじめは衝突しつつもいずれはハッピーエンドといった類型のお話がある。あの感じにキュンとする(かつ、ハードな展開でも大丈夫な)人は、ぜひ読んでみてほしい…。伸るか反るか、責任はとりませんけどね…。いや、こんな誘いで読んでしまった人には先に謝っとこう、ごめんなさい、全然違います。
 見どころはココとヤスの話だけではない。絵画もこの作品の重要な要素だ。ストーリーとしては善玉と悪玉が出てくるが、実はどちらも絵に対して誠実で真剣であり、善だの悪だのと世の中そんなに単純ではないと考えさせられる。と同時に方子さんの絵画への愛も感じる。
 内容面でも表現面でも最後まで全く息をつかせない、怒涛の展開に、語り口に、鬼気迫るものすら感じる、すごい本だった。



 以下、好きなところメモ。
・「僕たちが寝てしまったのがいけなかった」と言うモロ、翌日の明るいウエム。
・詩(韻文)の力!
・カーポとイラ楽しい。ジブリアニメの『猫の恩返し』の王様と大臣のビジュアルイメージ。
・ヤスがココにですます調で話すところ。
・「私って一体なんなんだろう」からの、「自分のしてきたことの果てが今なのだ」。
・おじいさんが水たっぷりの筆で風景画を滲ませるシーン。
・終章「日々の終わり」。何度でもきっと…どうしようもない、だって…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 子供向け?
感想投稿日 : 2023年12月28日
読了日 : 2023年12月28日
本棚登録日 : 2023年12月21日

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コメント 3件

たださんのコメント
2023/12/30

akikobbさん、こんにちは♪

これが高楼さんのデビュー作なのですね、お姉さんがいることも含め、初めて知りました(^^;)

読む時期によって、合う合わないが変わるのは、それだけ伝えたい層をはっきりしていることと、高楼さんの作風の懐の広さを感じさせられまして、私も、どこかのタイミングで読みたくなりました(^o^)

akikobbさんのコメント
2023/12/30

たださん、コメントありがとうございます。

「伝えたい層をはっきりしている」→なるほど、そうですね。読んだ実感としても、自分の中のどの部分(経験とか感情とか)が共鳴しているかがはっきりわかるという感じで、「伝えたい層」そして「響かせたい部分」へのヒット力が強い!と思います。ご感想楽しみにしております。

今年高楼方子さんと出会えたのは大きくて、たださんからおすすめいただいたり感想を交換したりできて楽しかったです。
来年もどうぞよろしくお願いします♪

たださんのコメント
2023/12/30

akikobbさん、お返事ありがとうございます(^^)

なるほど。伝えたい層と共に、自分の中の、より細かい部分に共鳴し、響くのですね。
よく作家によっては、デビュー作が全てなんて事も言われますが、案外、高楼さんはそうなのかも。
なんて書いといて、その後も、独自の道をマイペースに行っているから、きっと、この方の信念は、いつまでも揺るぐ事がないのでしょうね。

はい。私も、akikobbさんとのブクログの時間は、とても楽しかったです(*'▽'*)
特に、高楼さんの「すてきなルーちゃん」(タイトル間違ってたら、すみません)は、akikobbさんのレビューがきっかけで知ることが出来て、こうした様々な立場の人のことを考えられるから、この人の作品が好きなんだよなあと、改めて実感することが出来ました。
こちらこそ是非、来年もどうぞよろしくお願いいたします♪

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