一九八七年刊行、高楼方子さんのデビュー作。二〇一六年の復刊版を読んだ。短いあとがきに、復刊にあたっての言葉がある。絵を描かれている千葉史子(ちかこ)さんは方子さんのお姉さんだそう。
そんな情報はどうでもいいくらい、すごい。
「意味不明、ついていけない、なんてもの読まされてしまった」と思う人と、「最高、大好き、私の人生の一冊」と思う人とに分かれそうな作品だ。私はどちらかといえば後者で、今とは違う時期(例えばもうちょっと若い頃など)に読んでいたら、自分が銅鑼になって打ち鳴らされたように人生に響きまくって、「人生の一冊」として心の神棚に祀っていたかもしれない。しかしこうも思う、またそれとは違う時期(例えばもっと若い頃など)に読んでいたら、びっくりして、この人の本は合わない気がするからもう読まないでおこうと思ったかもしれない。
人形の女の子ココがあるとき突然意思を持って部屋を抜け出し、ネズミやネコと出会って大冒険を繰り広げる物語。このまとめ方で何も間違ってはいないのだが、大冒険の内容はかなりハード。
ヤスという切れ長の目のネズミに出会ってしまったことが全ての始まり。ディズニーアニメでいうと、『ラプンツェル』のフリン・ライダーであるとか、『ズートピア』のキツネのニックであるとか、ああいったちょいワルお兄さんが出てきて、純なヒロインとはじめは衝突しつつもいずれはハッピーエンドといった類型のお話がある。あの感じにキュンとする(かつ、ハードな展開でも大丈夫な)人は、ぜひ読んでみてほしい…。伸るか反るか、責任はとりませんけどね…。いや、こんな誘いで読んでしまった人には先に謝っとこう、ごめんなさい、全然違います。
見どころはココとヤスの話だけではない。絵画もこの作品の重要な要素だ。ストーリーとしては善玉と悪玉が出てくるが、実はどちらも絵に対して誠実で真剣であり、善だの悪だのと世の中そんなに単純ではないと考えさせられる。と同時に方子さんの絵画への愛も感じる。
内容面でも表現面でも最後まで全く息をつかせない、怒涛の展開に、語り口に、鬼気迫るものすら感じる、すごい本だった。
以下、好きなところメモ。
・「僕たちが寝てしまったのがいけなかった」と言うモロ、翌日の明るいウエム。
・詩(韻文)の力!
・カーポとイラ楽しい。ジブリアニメの『猫の恩返し』の王様と大臣のビジュアルイメージ。
・ヤスがココにですます調で話すところ。
・「私って一体なんなんだろう」からの、「自分のしてきたことの果てが今なのだ」。
・おじいさんが水たっぷりの筆で風景画を滲ませるシーン。
・終章「日々の終わり」。何度でもきっと…どうしようもない、だって…。
- 感想投稿日 : 2023年12月28日
- 読了日 : 2023年12月28日
- 本棚登録日 : 2023年12月21日
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