過去の交際相手の妻と子ども達を怨恨による放火で殺害したとして、24歳の田中幸乃は死刑判決を受けた。彼女を身近に知っているものたちはその判決に驚き、何人かは事実を確認しようと動き始めるが、彼女自身は犯行を否定せず反省も口にせず、再審請求もしなかった。
裁判長が読み上げる彼女の判決理由‐彼女の生い立ちや犯行の経緯-とともに、彼女の人生の一部を知るものがそれを回想していく形で物語は進められる。
日本推理作家協会賞受賞作品らしく、最後まで気を抜けず目を離せない作品だった。
判決理由で短く切り捨てられた彼女の人生に、どんな真実があったのか明らかになっていく過程は、温かく悲しい。
*******ここからはネタバレ*******
作品の構成としては優れていると思うが、そのためなのか不自然な展開ではないかと思われるは多々見受けられた。
私の読解力では解けない疑問だ。
例えば、
幸乃の祖母は、引き取っても得るところのない彼女をどうして手元に置きたがったのか。
幸乃の父は、どうして突然彼女の養育を放棄したのか。酔って暴力をふるったのはあの1回だけだったのであれば、姉である実子の陽子のためにも引き続き養育した方がよかったのではないか。
執行への時間が差し迫った中で、翔が冤罪の可能性を追求しようと協力を求めた敏腕弁護士を慎一が断ったのはなぜなのか?
そもそもなぜ慎一は幸乃と特別に親密であったのか?それは彼女が彼の窃盗を身代わりしたためなのか?彼女はそれを知っていたのか?
9歳までは普通の温かい家庭で育った彼女が、自己肯定感が極端に低いのはなぜなのか?
男性の著者だからか、ミステリ気分を上げるためなのか、性暴力があっさりと描かれ過ぎの点も気にかかる。
いくら意中の男の子からであっても、中学生が心の準備もないままに半ば暴力的に行為に至られては、平静を装うことも困難ではないか。
この辺りはエンターテイメントと考えられるのか。
普段子どものために書かれた本を読むことが多いだけに、人物の扱われ方にひどく違和感を感じる。
あとがきで辻村深月さんが「田中幸乃を見守り、味方であり続けたのは、誰よりも、著者の早見和真その人だと」書かれているが、私は彼女が「死ぬために生きたこと」を肯定できない。
死ねば、自分の存在さえ消せば、何かが収まるものでもないし、彼女のその死への執着から自死を選んだ若者もいたのだから。
- 感想投稿日 : 2018年5月29日
- 読了日 : 2018年5月28日
- 本棚登録日 : 2018年5月28日
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