グリム兄弟が採録した「ハーメルンの笛吹き男」伝説は、笛吹き男についていった100人を超える子どもたちが消え失せてしまうという、ちょっと気味の悪い、それだけに想像力を刺激される話だが、その原型になった事件が実際にあった(もしくはそう信じられている)のだそうな。けっこうびっくり。その傍証となる史料があり、舞台となったハーメルンには事件に基づく風習や、遺物が残されているという。
伝説そのものは、超自然的な色合いが濃いが、では実際には何が起きたのか。本書では巷で有力な仮説がいくつも紹介されており、ミステリーを読むような面白さがある。
ただ仮説のどれが正しいのかを分析することが、本書の主題ではないようだ。笛吹き男伝説に近づいたり離れたりしながら、中世ヨーロッパ社会のあれこれが語られる。植民の話、社会の下層民の生活、遍歴芸人、数々の祝祭・・・伝説の成立過程に多かれ少なかれ影響を及ぼしたと思われるこうした社会学的な話に興味を持てるかどうか。ぼくは面白かった。
本書が面白かったひとは、大林太良の比較神話学に関する著作が面白いと思う。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
歴史・ドキュメンタリー
- 感想投稿日 : 2023年10月11日
- 読了日 : 2023年10月11日
- 本棚登録日 : 2023年10月11日
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