事業再生の進め方について、ストーリー仕立てで述べた本。著者は複数社の事業再生経験があり、本書はそのうちの1社であるコマツで実際に起きたことをベースに描かれている。慢性的な収益力低下に陥った状態からいかにして収益力を取り戻すか、現状把握~プランニング~実行とステップごとの要諦と合わせて具体的なアプローチが示されている。
特に日系企業の再生にフォーカスしており、既存の従業員にどのようにアプローチしていくかが詳細に描かれている。欧米と違って日系企業では社員を簡単に解雇できないことから、戦略の理論に基づく事業の良し悪しの見極めといった視点よりも、従業員一人ひとりのマインドセットを変えて経営的なモノの見方をいかに浸透させていくかが主眼となる。
会社内に漂う停滞感・閉塞感の描写が見事。危機感・責任感の欠如と被害者意識・他責思考の蔓延、内向き志向による顧客視点の欠如、社内での競争意識の欠如などなど。既視感が非常に強く、一気に引き込まれた。
アプローチの大枠は以下の通りオーソドックスな内容。
・適切な商品群ごとに事業の将来性を見極め、撤退or継続の判断
・適切な規模感でスピーディな事業運営ができるビジネスユニットの構築
・ビジネスユニットごとの戦略策定と開製販で連携したスピード経営の実践
このアプローチを、従業員のレイヤー・マインドセット・スキルセットを踏まえて、巻き込みor排除しながら実行していくことが難しいところであり、本書の一番価値があるところ。本書に倣って表面的な内容だけなぞっても、おそらく失敗することになるだろうと思う。短期間で事業の収益性・将来性を見極めることも難しいが、従業員のマインドセットの分布や今後の事業の中核を担う人材の見極めが特に難しいと想像する。
時間軸についても各ステップでの具体的な所要期間が示されており、従業員のマインドセットの変化と連動しているので、合わせて参考とする必要がある。また、時代背景は昭和なところがあるので、ここは当世風の働き方に合わせて少しアレンジが必要になると想定する。
伝統的な日系大手企業の従業員は必見。
- 感想投稿日 : 2022年5月4日
- 読了日 : 2022年5月4日
- 本棚登録日 : 2022年5月4日
みんなの感想をみる