星月夜

著者 :
  • 文藝春秋 (2011年12月12日発売)
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本棚登録 : 274
感想 : 50
5

2組の「祖父と孫娘」の明暗がせつなく胸に残るミステリー小説。
伊集院氏が初めて取り組んだジャンルということだが、私にとっても初めての伊集院氏の作品で、ドキドキしながら読んでみた。

物語の始まりは残暑厳しい9月の東京。(なんと、今の季節にピッタリではないか、と読む気になったのだ。)
その東京・の浅草寺では、年に一回9月に「行方不明者相談所」が設けられる。東京で行方が分からなくなった孫娘佐藤可菜子を捜して、そこを岩手県からきた祖父が訪れるところから物語は始まっている。同じ頃、島根県の山奥では、一人暮らしの老人佐田木が失踪し、孫娘の由紀子が捜索願いを出していた。
やがて東京湾にビニール袋にくるまれた二つの遺体が発見された。

この殺人事件の裏には、40年前の満天の星空の思い出を大切にしている人物の存在があった。その人物は祖父の行方を捜す由紀子の出生の秘密にまで関与していたのだ。
点と線のようにバラバラだったそれぞれの登場人物がやがて一つの線に結ばれて、事件解決へと向かっていく様が気持ちよく描かれていた。

一番不幸な目にあったのは岩手県から出てきた佐藤可菜子だろう。
田舎からでてきた少女が簡単に沈んで行く大都会のワナ。裏社会の残酷さもそつなく描かれ、人生の転落をさまざまと見せつけられた。
東京は怖いところ・・・再認識までしたほどだ。

余談だが…
主人公の一人、由紀子は目元が印象的な古典的な美人とされている。たとえていうと「半跏思惟像」の美しさだという。
私には、由紀子は伊集院氏の亡き妻夏目雅子さんをイメージしたような気がしてならない。全体から漂う自然描写の美しさと哀愁も、故夏目雅子さんを思い出させる作品だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2012年9月22日
読了日 : 2012年9月22日
本棚登録日 : 2012年9月22日

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