夜明けのすべて

著者 :
  • 水鈴社 (2020年10月22日発売)
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瀬尾まいこさんが書く物語は、嫌な人が出て来ないから安心して読める。こんなにも嫌な人っていないものなのだろうか。不思議だ。

一人はPMS、一人はパニック障害を抱え、社会生活がうまくいかない二人の話。
こんなにも他人にお節介を焼かれたら、「放っといてくれ!」とキレそうだけれど、この二人はお互い悩みを抱える当事者同士だからだろうか…素直に聞き入れる様子がいじらしい。
大丈夫だろうかと心配するのと見守りたい気持ちで溢れた。
また上司の言葉が温かくて良い。「(病気を)公表して楽になる人もいれば、誰にも気づかれずにいる方が楽な人もいる」。黙って察する思いやりを感じた。

この二人とは状況や症状は違うが、私自身も色々と経験があり、二人に共感できた。読後は爽やかで良かったと思う反面、過去のことを色々と思い出して考えてしまった。
特にはっと思い出し、改めて共感できたことは、「忘れていたことを思い出した」というところ。
(病気になる前の)これまでの自分は、こんなことが好きだった、得意だった、夢中になっていたなーと思い出せるのは良い兆しだと思う。
私の場合、好きだった食べ物・音楽・番組・タレント・本・漫画・服、趣味、よく出かけた場所、電話やメールをよくしていた相手など…
曇り空に少しずつ光が射し晴れていく感じ、暗いトンネルを抜ける感じというのかな…そういう明るく開けて行く感じがキタ!
("夜明け"って分かる気がする)

今日はこれができた、こんなことをやった、とかは考えない方が良い。明日できないかもしれないから。本当に一進一退。人それぞれ。
益田ミリ著"すーちゃん"の言葉「新しいあたしを増やしていく」が好きで思い出す。病気になったことも含め、自分を更新していけばいいのかな。そしたら強くもなれる。

完全に治らないかもしれない。時間がかかるかもしれない。この二人を見守りたい気持ちでいっぱいだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学:作者さ行
感想投稿日 : 2022年6月22日
読了日 : 2022年6月20日
本棚登録日 : 2022年6月20日

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