描写や展開がリアリティ重視なのか、ストーリーはイマイチはじけていきません。
この辺は好みによりますが、ミステリーというなら私はもう少しひねりを加えてほしかったかな。
池上冬樹氏の解説で、遠藤周作が「ある闘病記」の解説でユング派を引用した話に言及しているが、さすがに遠藤は鋭い。
引用を要約すると、死期を迎えた人間が、病を原因と結果のフロイト的因果律で考えるのではなく、何のために病気になったのかという目的論、つまりユング的未来志向をすることで、病気を否定的なものに留めず、病気を利用して新しい人生の見方を更新していく方が魂にとっては健康的だという。
確かに本書の主人公ベンは、死ぬために旅に出て、旅先で出会う人間や自然とのかかわりから自分が生きている実感と意味を見出したという点で、まず死のうと行動することで偶然にも生きる目的を見出したケースだといえよう。
そして皮肉にも家族に迷惑をかけずに死のうと考えていること自体が結局は家族への裏切りだったことにも気づく。
本書の優れている点は、ベンの最後の冒険を家族は誰も知らないでベッドの上でベンの死を迎えるのだろうなと想像させる点にあります。そう、当たり前ですが(死を迎える)人間には、それぞれに誰も知らない秘密をもっているということをさりげなく気づかせてくれます。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2019年10月17日
- 読了日 : 2019年10月17日
- 本棚登録日 : 2019年8月28日
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