小谷野敦氏が『このミステリーがひどい!』でミステリ小説1位に挙げていたので読んでみましたが、なぜこの作品を1位にしたのか書かれていなかったので、勝手に想像してみます。
事件の背景に、社会的なタブーを取り扱った点というのがポイントでしょうか?
私にはそれ以外の推奨理由が見当たらなかったためという消去法での結論ですが、例えば推理小説としても基本的な瑕疵が残っています。
以下ネタバレあり。
例えば、アパートの管理人が牛乳に含まれていた睡眠薬(アルドリン、それも致死量)をのんで死にましたが、なぜ味変に気づかなったのかという点と、現場から牛乳瓶を失敬した記者(証拠隠滅罪です)でしたが、警察が牛乳を飲んだのに現場からその瓶が発見されないことを疑問視しなかった点は無視できません。
さらに、アルドリンで姉に奇形児が生まれたという嫌な薬(既に発売禁止になっている)をあえて殺人に使用したのかという点もよくわかりませんでした。
そもそも奇形児の存在という隠蔽だけで、なぜわざわざ殺す必要があったのか(特に管理人)という動機も弱すぎます。
こんな風に傷の多い推理小説ですので、残るは社会的タブーへの挑戦という点が評価されたとしか考えられないのですが、そこにも素直にうなづけないところが。
小説の最後に、奇形児を持つ母親との会話があります。
記者は、その子の写真を世間に公表することで、社会の問題とすべきだと主張します。
上に立つものは、隔離し隠すことが解決だと錯覚している。目を背けることが心の優しさだと錯覚している。そして、当事者の方でも、悲しみや怒りや不合理をつつましく自分だけのものとして受け止めてしまい、またそれが、美徳だと錯覚している。ここに、何の解決があるだろう?(P345)
これは、正論です。
ただ、一つ大きな問題なのは、大衆とは残酷な好奇心の塊であるという点に思いをはせていないことです。
奇形児の写真を見れば、多くの人は心を痛めるでしょうが、その一方で単純に興味本位のみでみたり、自分に降りかからなかった幸運を喜ぶだけで、その子たちの置かれている厳しい環境に思い至らず、ましてやその子たちのために立ち上がろうとする人など皆無でしょう。
「あの子のために写真を撮ってください」と母親は最後に承諾しましたが、大衆の好奇の目にさらされただけの結果で終わってしまったのは、小説冒頭のプロローグが語ってています。
ここまで想像してみれば、小谷野氏の1位推薦もわからなくはないか。
- 感想投稿日 : 2018年10月18日
- 読了日 : 2018年10月18日
- 本棚登録日 : 2018年10月18日
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