永田鉄山 昭和陸軍「運命の男」 (文春新書 1031)

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  • 文藝春秋 (2015年6月19日発売)
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もし彼があの時に暗殺されなければ、陸軍の暴走に歯止めをかけられた人物の筆頭だったはず、という仮説を検証した内容です。
白昼陸軍施設内での斬殺事件を受け、永井荷風の日記には、「政党の腐敗、軍人の過激思想、国民の自覚無き事という三事が日本現代の禍根なり」と記した。
日本が全国力を上げて、対外交渉をしなければならない時点においてさえ、陸海軍間での覇権争い、統制派と皇道派といった思想の対立を内部に抱えていた点で、日本の敗戦は決まっていたのでしょう。さらに、私腹を肥やす政治家の存在や、マスコミに踊らされ「戦争」を煽る国民など、本当に日本の未来を真剣に考えて行動する人材がこの国にいなかったのは不幸でした。そんな中で、永田鉄山がバランスの取れた国際派であり良識派だったのは間違いありません。歴史に「もし」はありえませんが、彼なら「支那事変の発生を未然に防ぎ、国論の帰一と軍民の一致を実現し、軍を統制できた」と想像させる人物であったのは確かです。さらに言えば、永田を失った後に出てきたのが、小心者の東条英機だったことも不幸でした。こうしたテロは連鎖を生み2.26事件などの軍人の暴走につながっていきました。
勇猛果敢な日本の「サムライスピリッツ」なるものが、戦中には「問答無用のテロ」や「玉砕」などといびつに変容していたのもなんとも哀しい。

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斬殺事件から80年 昭和陸軍「スーパーエリート」の人生 戦後70年の夏がやってきます。なぜ日本は太平洋戦争にむかったのか。いや、そもそも日本軍はなぜ中国、満洲に権益を求めて暴走したのか。さまざまな観点から、昭和史の議論が熱くなる夏になりそうです。 本書の主人公、永田鉄山は「陸軍の至宝」「永田の後に永田なし」とまで言われた、日本陸軍史上最高の「エリート」とされた人物。50歳で陸軍省の要職中の要職、軍務局長に抜擢されますが、1年後、白昼の陸軍省内で陸軍中佐に斬殺され、日本中に衝撃を与えます。 なぜ、スーパーエリートは殺されたのか。そして、彼が生きていたら、日本の歴史はどう変わっていたのか。 これまでに「樋口季一郎」「松井石根」の軍人評伝を文春新書で書き上げている早坂隆さんによる筆は、エリートだからこそ背負わねばならなかった運命を様々な証言、資料から編みあげていきます。 かつて理想を掲げあった仲間と溝が深まってゆく目標の違い。相次ぐクーデター計画と怪文書が飛び交う陸軍内の「派閥抗争」。永田が闘い続けたものとは何であったのか。昭和史上もっとも衝撃的な事件の真相に迫る、ノンフィクション評伝の誕生です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年11月18日
読了日 : 2021年11月18日
本棚登録日 : 2021年11月18日

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