再読です。
著者が配偶者を亡くし、それを綴ったエッセイが話題になっていたころから著者のことがなんとなく心配で、でも、そんな辛いエッセイを読む気にはなれず、本棚に合った直木賞作品を再読することで折り合いをつけました。意味ないけどね。
著者のことを初めて知ったのはまさにこの小説で、当時はかなりインパクトがありました。
その後も著者の本は何冊か読みましたが、本書を超えるものはありません。
再読でも、軽井沢の風景描写が美しければ美しいほど不穏な気持ちに拍車がかかってゆくという読者の誘導は絶妙だと感じたし、70年代の学生闘争の象徴である浅間山荘事件の終結が奇しくも主人公の官能的な世界の終焉と同時にやってくるというウマさにも唸りました。
そしてなにより、思春期の少女のような主人公の無垢な心が、退廃的な夫婦に惹かれ囚われていく様は圧巻です。
だからこそこの崩壊の結末も哀しくはあるけれど納得感もありました。
そんな中、マルメロの樹が最後に残してくれたメッセージには胸が熱くなりました。
余韻が残る作品。
藤田宜永さん、ご冥福をお祈りいたします。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2022年1月27日
- 読了日 : 2022年1月27日
- 本棚登録日 : 2022年1月27日
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