崩れる脳を抱きしめて

著者 :
  • 実業之日本社 (2017年9月15日発売)
3.72
  • (229)
  • (423)
  • (382)
  • (62)
  • (9)
本棚登録 : 3666
感想 : 400
5

知念作品、やっぱり好きだなぁ。

医療×ミステリーではまさに一級品で、本作は恋愛小説としてもステキな作品でした。

本作の主人公は脳外科医を目指し神奈川にある富裕層向けの療養型病院に研修医として実習に来た碓氷蒼馬。

そこで出会った入院患者の弓狩環は悪性脳腫瘍(グリオブラスマート)に侵され、その腫瘍は脳幹部にまで達しておりもはや手術も出来ない状態。

そう彼女は脳内に「爆弾」を抱える終末期の患者。

初めて診察に訪れた病室で「ゆがり」の濁音の響きが格好悪いと「ユカリ」と呼んでほしいと伝える。

そうして始まった1ヶ月の研修期間の中で蒼馬はユカリと接していく中で、蒼馬を苦しめる過去の謎解きが始まる。

それは幼い頃に自分と母親と妹の3人と大きな借金を残し、預金を引き出し若い女と共に家族の前から消えた父親の死にかかわるもの。

蒼馬はずっと若い女と逃げた父親を恨み、お金に苦労してきたが故に、脳外科医として腕を上げアメリカで金を稼ぐことに執着していた。

そんな蒼馬の父親疾走に隠された謎はユカリの助けを得て思わぬ形で真実が明らかになる。

ここまででも一つのミステリー作品であるが、本作の凄さはむしろここから始まる。

徐々にユカリに心を惹かれた蒼馬は研修最終日にその想いをユカリに告げようとするも、ユカリがそれを許さない。

そして故郷の広島へと帰った蒼馬のもとに届いたのはユカリの死。

ここからユカリの死に纏わる新たな謎解きが始まる。

ラスト20pからの怒涛の謎解きはどことなく感じる部分があったとは言え、1行毎に明かされる謎解きと、そこに仕込まれていた伏線はお見事としか言えない。

そして本作の結びはまさに恋愛小説そのもの。

読み終えた読者には「崩れる脳を抱きしめて」というタイトルの付け方の旨さにも感心させられたことだろう。

この1冊で2〜3冊分を読んだ気にさせてくれます。


説明
内容紹介
彼女は幻だったのか? 今世紀最高の恋愛ミステリー!! 圧巻のラスト20ページ! 驚愕し、感動する!!! 広島から神奈川の病院に実習に来た研修医の 碓氷は、脳腫瘍を患う女性・ユカリと出会う。 外の世界に怯えるユカリと、過去に苛まれる 碓氷。心に傷をもつふたりは次第に心を 通わせていく。実習を終え広島に帰った 碓氷に、ユカリの死の知らせが届く――。 彼女はなぜ死んだのか? 幻だったのか?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年10月24日
読了日 : 2020年10月24日
本棚登録日 : 2020年10月24日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする