14歳のアウシュヴィッツ ─ 収容所を生き延びた少女の手記

  • 白水社 (2011年10月8日発売)
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感想 : 11
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後半に渡って何かにつけてはパンツに関する話題が多かったなということを後で思い出しました。14歳の少女が経験した強制収容所という地獄。その中でたくましく生き残っていく姿がとても胸を打ちました。

本書はアウシュヴィッツなどの強制収容所を転々とした14歳のハンガリー系ユダヤ人少女が書き綴った記録です。我々には想像すらできないあの苛酷な環境の中でこの手記がノートの切れ端、あるいはトイレットペーパーにまで綴られ、それが失われることなくこうして世に問うことができたのは、本当に奇跡であるとしか言いようがありません。

彼女はあのアンネ・フランクとは同年代生まれだということで、『アンネの日記』の終着点からスタートし、「その後」を書き残したともいえるのだと思います。作中でもことあるごとに描かれているのですが、収容所内で書かれて、彼女たちを監視している人間はもちろんのこと、同じ収容所にいる囚人仲間にすら日記の存在は隠し通さねばならず、彼女と親しくなったカポ(囚人たちを監視する看守)の特別な計らいによって秘密裡に持ち出せたということで、ナチス・ドイツの強制収容所内でのあけすけなまでの人間模様を知ることができるのです。

本書の最大の特徴といえるのは、あらゆる悪態とブラックジョークのオンパレードで、ところどころに思わずニヤリとさせられつつ、ページをめくっておりました。彼女の筆の攻撃先は収容所の幹部たちに対してはもちろんのこと、同じユダヤ人の収容所仲間に対してもふんだんに向けられており、その悪口雑言の数々は恥部を抉り出すようなものがあり、その点にはおかしみを感じつつ、複雑なものを感じておりました。

中心となって記されているのは女囚たちの日常で、実際に彼女たちにムチをふるうカポをはじめとする中間管理職たちや、虐げられた環境の中でいかに他人を出し抜くか、それによって生きるか死ぬかということが彼女たちに重く覆いかぶさっていたというなんともやりきれないことがつぶさに記されております。ひたすらうまく立ち回って生き延びようとする「ファルク三姉妹」筆者たちに「フィン族」と揶揄されながらも固い結束力を持つマラムレッシュの女たち…。それでもあっさりと生きる意志を放擲して死んでいく人々もその中で多かったということも忘れてはいけないことでした。

しかし、その鋭い眼差しの一方で14歳の女の子らしい言動、たとえば気になるカポに対する淡い恋心と普段、自分たちを管理していることへの苛立ちというアンビバレントな思いを記していたり、靴や服の配給があったときには、それらでささやかながらも目いっぱいお洒落を楽しんで見たりと、そのたくましさと等身大の女の子らしさというものが同居しているのも、彼女並びに本書の魅力のひとつであると考えております。

彼女が置かれた環境や運命は、文字通り悲惨の極致なのですが、それを笑い飛ばすようなある種の「強さ」を感じさせるものがあって、とても面白うございました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年10月4日
読了日 : 2013年10月4日
本棚登録日 : 2013年10月4日

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