本書は衝撃的な作品を次々と発表する作家・花村萬月先生による『笑う萬月』『萬月療法』につづくエッセイ集の第三弾です。今回もまた硬軟織り交ぜた聖俗一致の『萬月節』が縦横無尽に炸裂しております。
本書は『笑う萬月』『萬月療法』につづく花村萬月先生によるエッセイ集の第三弾です。前の二つもかつて読んで、大笑いしつつ、「萬月節」の縦横無尽さに「なるほどなぁ」とうなづいていたものですが、本書を読んで、円熟味を増した筆致とそれでも下世話な話から、作家を志す人間のために新人賞の内幕から作品を送る際の警告にいたるまで、本当に聖俗一致のエッセイでした。
一読して現代の書き手というのは本当にネットとかかわりがあるんだな、ということでした。だからこの駄文も本人の目に触れるということが前提で書いているんですけれど、それでも花村氏のネットとの適度な距離のとり方やウィキペディアをよく見つつも、作品を執筆する際には何の役にも立たず、人の手をいくつも経た上で精査された者がやっぱりいいというのは、「本物」の書き手の一人なんだな、ということを思うのでした。
さらには「アウトサイダー」に関する記述が本当に自分の身にもつまされていたり、自身が若いときに全国各地の「原発道路」を走って、そのひとつで警備員に取り囲まれたときの話は本当に面白かったです。最後に花村氏の愛犬であるパグのブビヲがこの世を去ったことを告白しているのですが、
「ブビヲの存在を他の犬に置き換えることができない」
という言葉の中に、喪失の悲しみが集約されているような気がしてならないのです。とにもかくにも笑えて、うなづけて、最後はすこし哀しい。そんなエッセイでございました。
- 感想投稿日 : 2013年6月22日
- 読了日 : 2013年6月22日
- 本棚登録日 : 2013年6月22日
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