政治学者の岡田憲治による、エッセイ/体験記。政治学者としての矜持を持つ著者が、小学校PTAの会長を務め、身近な政治を3年間実践した経験の物語。著者の学問的な理論と、これを圧倒する学校現場やこれを取り巻く教師と親達の現実を対比しながら描き、それにより仕組みや環境などの深い課題を浮き彫りにする、良質なエスノグラフィーともいえるのではないかと思う。例えば、「PTA役員選出は公益のため独立性の担保された機関により行われるべきである」という正論と、「自分自身意味も分からない中で子どものためと言われて辛い思いをしながらなんとか頑張ってやってきたPTA活動の引き継ぎ先は自分たちに了解を得てから決めるべきだ」と考える旧役員の気持ちが対比される。その背景として、活動の意味を説明しない行政や学校側の余裕や意志の無さ、意味を問わない親たちの文化、意味がわからなくても与えられた仕事を完璧にやろうとする真面目さ、マネジメントばかりが発達しリーダーシップが欠如した仕組みなどが描かれる。PTAメンバーの人はもちろんだが、組織のリーダーをしている人、リーダーの観点で組織の問題をより深く理解したい人には相当な含蓄がある本だと思う。
現場は常に理論を圧倒する、という趣旨の言葉が書かれていたが、この言葉がこの本によって非常に腹落ちした。
理論は実験室内のことでしかなく、現場でその理論を再現するためにはさまざまな「ノイズ」に打ち方ねばならず、それこそが難しい。
また、著者が「自治」=「自分のことはできる限り自分で決めること」の考え方ことをとても大切にしているようで、自分の人生や、自分のコミュニティにおいてリーダーシップを発揮することの大切さを描いている。
- 感想投稿日 : 2023年1月28日
- 読了日 : 2023年1月23日
- 本棚登録日 : 2023年1月23日
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