大震災の後で人生について語るということ

著者 :
  • 講談社 (2011年7月30日発売)
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 東日本大震災と原発事故という巨大な黒い白鳥が飛来するさなか、想像を超えたカタストロフを目にしながら、震災体験を経て変わった人生論を展開……と期待して手に取った。だがここに描かれているのは緊急性からは最も遠い、長期的な人生プランニング=資産運用の話であった。橘玲さんの資産運用本を読んだことがある人にとっては目新しいことはないだろう。
 その意味では拍子抜けの一冊であった。では何故「震災の後に」?
 氏は震災の現実を目にして、やりかけの仕事を中断し呆然と過ごしていたという。「そしてあるとき、天啓のようにそれは」やってきたのが、いままでやってきたことを徹底的に突き詰めることでしかその先には進めないという想いだったそうだ。
 なので、この本で説明される資産運用による人生設計は他の橘玲本よりさらに明快かつ簡潔で、まず最初の一冊としてもおススメだ。当然ファンドマネジャーの甘言もない。

 また、この本が著された2011年当時、絶望的なまでに高まった政治不信を感じた。現政権はあの民主党政権にに比べれば、はるかに物事が前に進んでいるのは否定できないだろう。

 最も興味深かったのは本の題名そのままの最終章。特にその中の「希望」の創出についての具体的な提案。それは、
1.定年制の廃止  2.同一労働同一賃金  3.解雇規制の緩和 この3つによる流動性のある労働市場を作れば、就職(新卒)に失敗した若者も、中高年の転職希望者も、仕事を見つけやすくなる。「たとえ年収が下がっても、仕事さえあれば人は未来に希望を持って生きることができる」、そして世界最悪の自殺率は下がっていく、という

 加えて個人的に思うのは、これからロボット化、AI化によってさらに人的労働力の必要性は減少するだろう。そのとき週5日労働が果たして最適だろうか? 週4あるいは週3日労働で「年収が下がっても、仕事がある」という環境があれば、収入だけではない多くの人に行き渡る豊かさが創出できるのでは? と考えた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会
感想投稿日 : 2016年5月28日
読了日 : 2016年5月28日
本棚登録日 : 2016年5月20日

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