贖罪 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2018年12月22日発売)
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感想 : 28
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自らのための備忘録

 「贖罪」というタイトルに惹かれて本書を買ったのはかれこれ15年ほど前のことでした。しかし冒頭の劇「アラベラの試練」の練習部分があまりにも冗長で退屈に感じられ、活字を目で追っているだけとなり挫折→BOOKOFFへ。
 最近、たまたま「つぐない」というタイトルに惹かれて見始めた映画が、あの『贖罪』が映画化されたものだと気づき、小説に挫折したのでせめて映画はと思い最後まで見ました。
 そうしたら、この結末を知った以上、もう挫折することなく一気に最後まで読み切れるような気持ちになり、もっと深く登場人物について知りたいと、一旦売った本を買い直し読むことに。以前は上下巻だった新潮文庫がいつのまにか一冊になっていました。
 「現代の名匠」「現代文学の到達点」「英国文学の金字塔」などと推薦句も読書欲を掻き立てました。

 読書感想というのは、作品や作者の評価であると同時に、読み手の読解能力や現在の感受性も自ずと評価されてしまうと思うのですが、私が歳をとりすぎて感性が鈍くなったからなのか、読解力が落ちてしまったからなのか、残念ながら「読書の喜び」が感じられず、「名作」を味わうことのできないもどかしさを感じた読書体験となってしまいました。
 早く結末に辿り着き、なぜあのような結末となったのか、その経緯や背景を知りたいという、だだそれだけのモチベーションで義務のように活字を「消化」していきました。特にダンケルクの描写は、私には苦痛でした。ロビーがなぜこの戦いに参加しているのか、それは冤罪のためなのか、それとも当時の成年男子ならば誰しもに課せられた義務なのか、もしかしたらどこかに説明がなされていたかもしれないけれど、私にはそれもよくわかりませんでした。
 そもそも「贖罪」とは、作中誰が誰にすべきことなのかも、実は私にはわかりませんでした。本当に償うべき人物は、あの日犯行に及んだ人物でだったのではないでしょうか。どうして13歳の主人公が一身に罪を償わなければならないと思い詰めたのか、私には腑に落ちないものがありました。わすか二日間のうちに、水盤での姉とロビーの姿を目撃し、心密かにロビーへの想いを抱いていた少女が卑猥な手紙を渡され、その上、図書室であのような場面に遭遇してしまい、さらにその夜の大事件を目撃してしまったというのほ、13歳の少女にとっては筆舌に尽くし難い大変な衝撃に違いないのです。少女は「故意に嘘の証言をした」のでしょうか?「思い込んでいただけ」ではないでしょうか?
 いつどの段階で少女は、真犯人に気づいたのでしょうか? ローラは? ローラはいつどの段階で気づいたのでしょうか? 真犯人に気づかなくとも、2人がそれぞれロビーの冤罪に気づいたのはいつだったのか。私の読み込みが足りないだけなのかも知れません。どこかに書いてあるのかもしれませんが、でももう一度、あの「アラベラ試練」「ダンケルク」を再読する気力はないので永久に私には謎が残るばかりです。
 ただ、上記のような経緯で映画を見てから原作を読んだので、映画では描かれなかった「アラベラの試練」が、親戚の子孫たちによって上演されたところに、何故だか胸がいっぱいになってしまいました。
 それでも、なぜタイトルが贖罪なのか、少女は思い込んでいただけではなかったのかなどとずっと感じ続けていたせいか、名作を心ゆくまで楽しむということはなく読了してしまいました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 外国文学
感想投稿日 : 2023年1月18日
読了日 : 2023年1月3日
本棚登録日 : 2023年1月18日

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