キツネ目 グリコ森永事件全真相

著者 :
  • 講談社 (2021年3月11日発売)
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感想 : 44

世間を震撼させ、未解決のまま2000年2月13日に完全時効を迎えたグリコ森永事件。
本書は、当時の被害者、捜査関係者などへの丹念な取材により、事件の全体像を明らかにするとともに、主犯格である「キツネ目の男」を中心とした犯人像に迫るノンフィクションである。

グリコ森永事件については、「どくいり きけん」のシール付きで青酸ソーダ入り菓子が店頭にばらまかれたこと、キツネ目の男の似顔絵が駅前にでかでかと張り出されていたことくらいしか覚えていなかった。先日、本事件を取り上げた『罪の声』を読んで、どんな事件だったのか全体像を改めて知りたくなり、手に取った。

まず驚いたのが、被害企業が思った以上に多かったこと。事件名から、江崎グリコと森永製菓だけが被害に遭ったのかと思っていたが、丸大食品やハウス食品工業、不二家など、数多くの食品会社が恐喝の被害に遭っている。犯人は江崎グリコと森永製菓を見せしめにして莫大な損害を与え、陰では別の企業に裏取引を持ちかけて大金を得ていた。その巧妙なやり口に薄気味悪さを覚える。
また、この事件で一般市民が巻き込まれ、誤認逮捕されていたこと、情報共有不足により犯人をあと一歩のところで取り逃がした滋賀県警の責任者が自殺していたことも初めて知り、いいようのないやるせなさを感じた。

犯人が後で知ったらぞっとしただろう、と思われるほど、警察はきわどいところまで犯人を追い詰めていたようだ。ほんの少しの偶然や歯車のずれ、警察の油断や見込み違いにより、世紀の事件は未解決のまま時効を迎えてしまった。
しかし著者は、残されたさまざまな痕跡から、最新の技術により本人特定が今からでも可能である、とし、最後に犯人に対してこう宣告する。
「時効によって罪に問われることがなくなっても、その怯えからは生涯逃げることはできない。」

犯人には、さまざまな人から大切なものを奪った罪の意識を死ぬまで持ち続けて欲しいと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治・社会・国際情勢
感想投稿日 : 2021年8月16日
読了日 : 2021年8月7日
本棚登録日 : 2021年8月16日

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