美麗島紀行 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2021年10月28日発売)
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感想 : 11

台湾を訪れたことはないが、今一番行ってみたい国である。といっても、私の中の台湾のイメージは、
食べ物がおいしいらしい。
親日で、東日本大震災の時には多額の寄付をしてくれた。
最近ではコロナの状況下で先進的な対策を進めた。
という程度で、台湾の複雑な歴史と日本との関わりについてはほとんど何も知らなかった。

本書では、乃南アサさんが台湾に残る日本の形跡を訪れ、人々と話をしながら、台湾と日本の過去と現在、未来について考えた旅の記録である。彼女も私同様、台湾の歴史をほとんど知らない状況で旅を始めたため、彼女の想いが私と同化して、自分も一緒に台湾を旅している気分になった。

台湾はかつて一度も独立国家であったことはないそうだ。時代ごとに異なる民族や国家が小さな島を支配し、住民はその文化を受け入れ、融合させて、多民族・多文化の現状を造り上げてきた。その中には、日本によって植民地支配され、日本国民として文化や言語を強要された50年間もある。
そんな彼らがどうして親日になってくれるのだろう、と不思議に感じたが、当時の日本が列強に負けない近代国家として植民地支配を成功させたい、とインフラや都市計画に力を入れたこと、日本が撤退した後の支配と比較して、日本の方がましだった、という感情もあるようだ。
さらに言うと、今自分がいる町を良くしたい、と骨身を惜しまず働いた日本人や、きわめて人間的な対応をした日本人がいて、彼ら個人の誠実さが結果的に現在の親日感情を形成している部分もあるような気がする。

多民族国家である台湾だが、多くは漢民族で構成される。その中でも、第二次大戦前から台湾で暮らし、先住民族との混合が進んでいる「本省人」、戦後中国大陸から移住してきた「外省人」、古くに黄河流域から移動してきて、独自の言葉と文化を持つ「客家人」に大きく分かれるという。
複雑な歴史的経緯から、台湾ではお互いのルーツの話はしない、話す相手によって言うことが自然に異なる、という特徴があるそうだ。そのような特徴を作り上げてきた一端を日本が担っていると思うと、申し訳なさといたたまれなさでいっぱいになる。

本書では、台湾の歴史を振り返るだけでなく、現在の台湾の状況についても語られる。かつての日本植民地時代の建物を保存・活用しようという動き、中国からの文化ではなく、独自の文化を発信しようとする動き。
かつて「日本人」だったからではなく、アニメなど現在の日本文化に興味をもつ若者が日本に親しみを持ってくれていることも知り、ほっとした。
中国大陸から渡ってきたものを展示している『故宮博物院』は台湾の観光スポットとして日本でも有名だが、近年、台南郊外に、島が歩んできた歴史を展示する『国立台湾歴史博物館』もオープンしたそうだ。

乃南さんのシンプルで読みやすい文章で、ほんの一端ではあるが、台湾のことを知ることができた。もっと歴史を勉強しなければ、と思うし、いつか台湾をゆっくりと訪れて、今の台湾についても知りたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 自伝・紀行・エッセイ
感想投稿日 : 2023年4月23日
読了日 : 2023年4月11日
本棚登録日 : 2023年4月23日

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