ドミトリーともきんす

著者 :
  • 中央公論新社 (2014年9月24日発売)
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とも子さんが娘のきん子ちゃんと暮らしながら寮母をつとめる学生寮『ドミトリーともきんす』。寮にはトモナガ君(物理学者の朝永振一郎)、マキノ君(植物学者の牧野富太郎)、ナカヤ君(物理学者の中谷宇吉郎)、ユカワ君(物理学者の湯川秀樹)の4人が下宿し、研究にいそしんでいる。
科学者の研究内容と著書のエピソードを漫画でわかりやすく紹介した本。

知っているのは名前だけで、研究の内容や経歴などはほとんど知らなかった研究者たちだが、まるで本当に彼らに接した人からエピソードを聞いているようで、それぞれの人物が愛おしく、研究のことをもっと知りたくなる。

トモナガ君は何を見ても自然の中の不思議をついつい考えずにはいられない。研究に行き詰り、「だいたいぼくは物理なんか大嫌いなんです。」と愚痴る彼には、人間としての共感を感じずにはいられない。

マキノ君は自由でユーモアいっぱい。小説『ボタニカ』や朝ドラで注目され、本屋で著書をよく見かけるようになったので、これからもっと研究や人となりを知ることができそうだ。

ナカヤ君は子供の頃に聞いたおとぎ話や伝説を心の中に大事に持っており、自然に対して驚異の念をもって接することができる。戦中に北海道で昭和新山を造り上げた自然の力を「闘争や苦悩の色がみじんもなく、それはただ純粋なる力の顕現である。」とする彼の言葉は、些細な事で右往左往する自分を一瞬冷静にさせてくれる。

ユカワ君は不器用で恥ずかしがり屋だ。作文が苦手なので、他の人と違って自分の気持ちを表した著書はあまりないようだが、物理学の将来を見つめる真剣なまなざしを感じる。
同級生だったトモナガ君とは、お互いに自分にはないものを持つ相手に対する羨望と尊敬があったようで、素敵な友人関係だと思う。

最後に引用されている湯川秀樹の「詩と科学」という詩が印象深い。
「…いずれにしても、詩と科学とは同じ場所から出発したばかりではなく、行きつく先も同じなのではなかろうか。/そしてそれが遠く離れているように思われるのは、とちゅうの道筋だけに目をつけるからではなかろうか。/どちらの道でもずっと先の方までたどって行きさえすれば、だんだんちかよってくるのではなかろうか。/そればかりではない。二つの道はときどき思いがけなく交差することさえあるのである。」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 漫画
感想投稿日 : 2023年1月15日
読了日 : 2023年1月15日
本棚登録日 : 2023年1月15日

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