画家、山口晃氏による「ヘン」な日本美術史解説本。
「ヘン」というのは、西洋美術から見て「ヘン」な「日本美術」の歴史である、ということと、年代の古い順に並べられているけれども、著者の思いの強さで取り上げた作品が選ばれた「日本美術史」としては「ヘン」なもの、の二通りの意図があるらしい。
本書は5章からなる。
第1章は『日本の古い絵』。「鳥獣戯画」「白描画」「一遍聖絵」「伊勢物語絵巻」「伝源頼朝像」を取り上げる。第2章は水墨画の祖、雪舟。第3章は「洛中洛外図」。第4章は『日本のヘンな絵』として、「松姫物語絵巻」「彦根屏風」「岩佐又兵衛」「丸山応挙と伊藤若冲」「光明寺本尊と六道絵」を取り上げる。
描かれている内容や時代の歴史的な評価が注目されることの多いこれらの絵だが、山口氏は画家としての視点で、これらの絵の「自由」なところに注目する。
つまり、写実性を求めるのではなく、対象から受けたイメージを膨らませ、それを強調して描く。絵としてのバランスをとるために、ところどころ力の抜けた箇所をつくる。うまく描く、というのではなく、三次元のものの印象を二次元の紙の上でいかにイメージ通りに伝えるかということを重視していた、というのである。
明治以降、日本に西洋の写生技術が取り込まれ、西洋に馬鹿にされないようにしないといけない、という時代の要請もあって、日本美術の「自由さ」より「写実性」が重要視されるようになる。
最後の第5章は、そのような時代に、試行錯誤を重ねながら日本画のよさと西洋画の技術の両立を目指した河鍋暁斎、月岡芳年、河村清雄を取り上げる。
「一度自転車に『乗れる』ようになってしまうと、『乗れない』事をできなくなってしまうよう」に、明治時代以降、写生を取り入れた日本人はかつてのような絵は描けなくなってしまった。現代でも、かつての日本美術の手法を使って作品を描く画家がいるが、どうしてもいやらしさが出てしまう、と山口氏は言う。
山口氏も試行錯誤を繰り返す現代画家の一人で、本書にはそんな彼の日本美術への憧れと自戒がこめられている。
本書はカルチャースクールでの講義をまとめたものなので、語り口は柔らかく、知らない絵ばかりでも興味を誘われる。
「洛中洛外図」に興味を持ち始めてから、少し気になるようになっていた日本美術だが、もっといろいろな日本美術をじっくり見てみよう、という気持ちになった。
- 感想投稿日 : 2022年12月31日
- 読了日 : 2022年4月20日
- 本棚登録日 : 2022年12月31日
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