エドガー・アラン・ポオの『アッシャー家の崩壊』を新たな解釈で再構成したミステリ。
日系人実業家、エイブ・アシヤ氏がボルティモアで購入した沼沿いの屋敷が爆破により崩壊した。屋敷には、エイブの弟の子どもであるロバートとメアリアン兄妹が住んでいたが、メアリアンは謎の言葉を残して死に、ロバートの遺体も沼から発見される。さらに、ポオの小説『ペレニス』『黒猫』に見立てた死体が屋敷周辺で次々と見つかったため、警察の捜査は行き詰まってしまう。
アメリカに住む父を訪れた日本人外交官のニッキは、父の友人の息子でボルティモアの警察官であるナゲット・マクドナルドから情報を得て、この不可解な事件の謎に挑む。
翻訳小説風の語り口に登場人物の冗談のような名前で、一見軽めのパロディのように見せかけて、実は極めて論理的に『アッシャー家の崩壊』の新解釈を展開する。この硬軟取り交ぜた感じが本書の大きな魅力である。
翻訳小説風というのもポイントで、舞台が日本なら警察の捜査にリアリティがないと物語が嘘くさくなってしまうところ、アメリカの警察が舞台なので、部外者のニッキがぐいぐい捜査に入っていっても「そういうこともありなのかな」となんとなく納得してしまう。
題名から推察できるとおり、本書はポオが大好きな人向けの小説なので、ポオの小説、特に『アッシャー家の崩壊』を全く読んだことのない人にはさすがにおすすめできないが、代表作を一度さらっと読んだ程度の私くらいの者ならミステリとして十分楽しめる。
読み終えた後は、ポオを改めて読み直したくなること間違いなしである。
- 感想投稿日 : 2024年3月9日
- 読了日 : 2024年3月3日
- 本棚登録日 : 2024年3月9日
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