82年生まれ、キム・ジヨン

  • 筑摩書房 (2018年12月10日発売)
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感想 : 98

夫と1歳になる娘と暮らす33歳のキム・ジヨン。突然自分とは別人格になって話し始めたジヨンに夫はとまどい、精神科に連れて行く。この話は、ジヨンへのカウンセリングをもとに精神科医が綴った彼女と彼女の母、祖母の人生の記録である。

映画を観た後すぐに本屋に買いに行き、近くのカフェで一気読みした。
女性として生きていたら一度は体験する、あるある内容が満載で、日本の小説ではないかと錯覚するほどだった。そして、こうやって小説の中で提示されて初めて「あ、よく考えたらあのことも差別だと主張してよかったことなんだ」と気づかされることも多かった。それほど脈々と続いてきた差別や刷り込みは、男性だけでなく女性自身も毒しているのだなあ、と改めて思う。小説のラストも、この問題の根深さを突きつける皮肉な終わり方だった。

ジヨンは、目の前に広がっていた可能性が一つ一つつぶされていくのに対し、おかしい、おかしい、と思いながらも言えずにきてしまった。別人格になる事でしか蓄積した行き場のない思いを外に吐き出すことができなかったのだろう。ジヨンのような症状にまで至る人は多くないかもしれないが、世の中には、世界中には大勢の「キム・ジヨン」が今も存在する。そして、自分自身が知らず知らずのうちにジヨンを追い詰める加害者になっているかもしれない。

小説は、ジヨンが別人格を持つに至った原因をふりかえり、問題提起するところで終わっているが、映画は、現状をどう変えていくか、という未来も描いている。小説では名前すら出ていなかったジヨンの弟や、それほど協力的に描かれていなかった夫も、映画版では、自分たちにできることを一生懸命考えてくれているし、姉や元職場の女性同僚、上司も理解のある人たちだ。公開するにあたり内容をマイルドにした、という事情があるかもしれないが、これから少しずつでも変えていける、というメッセージが込められていたのだと思うし、そうであってほしいと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外の小説
感想投稿日 : 2021年1月4日
読了日 : 2020年12月25日
本棚登録日 : 2020年12月25日

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