美しい本だ。
本に対して「美しい」という形容詞は曖昧すぎて伝わらないとは思うのだけど、この本を一言で言うなら「美しい」しか出てこなかった。
語られる言葉の美しさ、語られる中身の美しさ、語られるものの背景の美しさ。どれも読んでいて、ただため息が出るばかりだった。
「名著」という言葉では足りないくらい、出会えてよかったと心の底から思える本だ。
長年、東北各地の村を訪ねて人々の語る民話を聞いて回った思い出話が、その時聞いた民話と一緒に語られているのだが、これは単に民話を採集して回っているのではない。
民話を語る人を訪ねて回ることであり、民話が語られる土地を訪ねて回ることでもある。
それは、民話がどのような背景から生まれるのか、どのような人が語り繋いでいったのか、民話を通じて各地の歴史とその歴史を紡いでいった人たちを訪ね知ることでもある。
その一つ一つが読んでいて愛おしくなっていく。
著者が語る民話を語る人の姿にはっとしたり、著者が指摘する何気なく通り過ぎていった民話の背景にあるものにはっとしたりもする。
本棚の一番いい場所にそっとしまって置いて、ふとしたときに手に取ってパラパラと頁をめくってみたくなる。
そんな本に出会えた。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
ノンフィクション
- 感想投稿日 : 2020年10月24日
- 読了日 : 2020年10月24日
- 本棚登録日 : 2020年10月4日
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