テレヴィジョン・シティ (河出文庫 な 7-39)

著者 :
  • 河出書房新社 (2016年4月6日発売)
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感想 : 17
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とにかく謎の多いお話で、何がどうなっているのか理解が追いついていません、、。
いくつかの観点から感想を書いたのですが、読後からしばらく時間が経っているため、まとまりのない文章になってしまいました。

生徒たちのコードを当てはめると下記のとおり。
シルル:ML-0021754、イーイー:ML-0021234、アナナス:MD-0057654、ジロ:MD-0057864
コードから推測するに、本来はML、MDどうしでセットにならないといけないのに、アナナスはそのルールを破ってイーイーとセットになっているようですね。
それは異常ではあるけれど、AVIANが計画して仕組んだ故意の異常ということのようです。

途中、イーイーがアナナスに「失うのなら体と心どちらがいいか?」を尋ねます。
精油を飲むと体は失われるわけですが、その際に浮いた心はセットであるどちらか一方(名称から考えるとレシピエントの方)に吸収されてしまうのかもしれません。
シルルとジロは正式なセットではない上に、こちらも正式なセットでないアナナスとイーイーがセットであるかのように振る舞っているため(多分«クロス»)、浮いた心が収まるべき体に収まらず、消滅してしまったのかもしれません。
最後、イーイーの体が失われたとき、彼らと同じようにならなかったのは、AVIANが彼らを«コンビネェション»=セットと同じようなもの見なしたため、イーイーの心がアナナスにうつり、消滅を免れたから、、、でしょうか。
ただし、セットとは違うので、アナナスの中で2人が共存できるのか、より優秀であるイーイーがアナナスを食ってしまうのかはわからない…とのことでしたが。

途中、とっても面白い記述があって、P407のイーイーの言葉ですが、
「形を遺すものがなければないほど、失くすものが少なければ少ないほど、始末がいいように思うだろう。制御しやすいし、目が届く。
 エネルギイもいらない。(中略)今ではもう捨てるモノが見当たらない。でも捨てたい。捨てるという衝動を抑えられない。(以下略)」
「(略)身のまわりに捨てるモノがなくなったとき、最後に捨てるのはボディとスピリット、・・・・・どちらを先に手放すか、今は誰もがそれを悩んでる。」
という部分です。昨今の物を捨てるブーム、何もない部屋で自分の体一つで生活するというのは、わたしにはとても恐ろしいことのように思えます。
というのも、特にこの国は生活するうえで必要なほとんどのものを多くの人がすでに手に入れているにも関わらず、わたしたちはまだ何かを手に入れたくて、もうあとは自己承認欲求くらいしか残ってないからこうやって必死にSNSでアピールをしていると思うんです(笑)
しかし、自己承認欲求さえ満たしてしまい、もう他に何も手に入れるモノがなくなったとき、捨てたいという新たな欲求を見つけてしまうのかもしれません。
断捨離とかミニマリスとという言葉が流行するほど、「欲しい」でなく「捨てたい」という思いを満たすことで充実感を得られる、「何かを捨てる」ことが新たな欲求として理解され、浸透し始めていることを恐ろしく感じます。
あと、「世にも奇妙な物語」で以前見た作曲家の話も思い出しました。
作曲のために静かな環境を探し、防音室にこもった作曲家がまだ音が聞こえる、とペンを自分の心臓に刺して鼓動を止める、という話です。

(※ここからメモのようなものをまとめた内容になるので一層まとまりがなくなります・・)

アナナスが憧れている「アーチィの夏休み」はイーイー…の元になった人間のその記憶でしょうか。
彼は溺れた犬を救おうとして亡くなり、その人格を元にイーイーが形成された・・?だから自分が死ぬ原因となった犬をよく思っていない。
アナナスは特に最後の方はよく海のイメージを頭に描いていますが、それはイーイーが«クロス»をしてアナナスに自分が持つ記憶のイメージを流し込んでいるから?
イーイーがアナナスに記憶をもたらすことをよくないとしているAVIANはピパを用いて別の記憶を流し込んで矯正しようとするけれど、うまくいかない。
イーイーからもたらされる記憶と、Serviceで行われる矯正によってアナナスは記憶障害を起こしている・・・のかなあ?

AVIANは浄化の後、また生徒をつくり、同じことを繰り返すのでしょうね。けれど、AVIANの管理下を離脱したアナナスをAVIANは操ることができない。
浄化後のアナナスは浄化前のアナナスとはまた違うである上に、イーイーの心(というか人格というか‥)も付加されている。イーイーは消えてしまったので、浄化後の世界には存在しない。
こう考えると、髪をピンクに染めた少年(これは浄化後のアナナスと思います)が砂浜を歩いていく描写とイーイーの行動が一致するんですよね~。

この話が特にややこしいのが最後の「南国の島」という章ですが、数種類の世界線のようなものが入り混じっているように思えます。
ロケットでテレヴィジョン・シティを脱出しようとするアナナス、カナリアン・ヴュウで休暇を過ごしそのまま島に留まったアーチィ、浄化後のアナナスの3種類かと推測します。

テレヴィジョン・シティはAVIANというコンピュータが管理・作動しているわけですが、すべてはこのAVIAN内での話であり、生徒たち、家族についての概念、鐶の星、青い惑星に対するあこがれもすべては実体として存在しないのかもしれません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: *読んだ本2016*
感想投稿日 : 2016年8月16日
読了日 : 2016年4月20日
本棚登録日 : 2016年4月16日

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