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導入部はやや唐突で、何が起こっているのか、何が起ころうとしているのかを把握するのに苦労させられる。何だかよくわからないまま、結局はリゴー教授の“6年前の事件の話”に引き込まれざるを得なくなるのだが、それはそれで良いのかもしれない。何しろそれ以降は、著者の卓越したストーリーテリングで、最後まで目が離せないことになる。真相が明かされるシーンでは、バラバラになっていたピースが、ピタピタとはまり込んでいく様が目に浮かぶようで、感嘆するほかない。
トリックについても、過去の事件の真相についてはさして驚きはないが、現在の事件の方は“おお、なるほど!”と膝を打つほどで、とても感心させられる。
吸血鬼だ何だと騒がれる怪奇要素については、添え物程度と考えて良い。結局は、不可思議な出来事に遭遇した村人Aが「ありゃ幽霊の仕業ぢゃ!天狗様ぢゃ!河童ぢゃ!」と喚いているのと大差ない。ただし著者の巧みな筆致によってその怪し気な雰囲気は増幅されている。
人間関係にご都合主義的な要素はあるものの、巧みなストーリーテリング、秀逸なプロット、驚きのトリック、意外な犯人、そして戦後という時代背景など、様々な要素が渾然一体となり、かつ絶妙なバランスで成立している本作は著者の傑作の一つと言って差し支えないだろう。
ただ、そもそもフェル博士は“何故”マイルズを〈殺人クラブ〉に招待したのだろう? 〈殺人クラブ〉は通常、会員以外は講演者しかゲストに呼ばないというし、その日はリゴー教授が講演をする予定だった。フェル博士はリゴー教授の話をマイルズに聴かせたかったのだろうか、何のために? マイルズが所用でたまたまロンドンに来ていて、単に会いたかったから? だったらわざわざ〈殺人クラブ〉でなくても良いだろう。わからない。どこかにそのことに関する記述があっただろうか。ありそうなところをざっと読み返してみたが見つけられなかった。(ちなみに“リゴー教授の話を聴かせたかった”説を突き詰めていくといろいろと妄想できて楽しい。)
まあマイルズがそこを訪れなければ話は始まらないので、プロットのためにはそれは必然、故に理由まで気にしなくても良い、という気もしなくもないのだが、やはりどうにも腑に落ちない。
- 感想投稿日 : 2012年11月14日
- 読了日 : 2012年11月14日
- 本棚登録日 : 2012年11月12日
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