アハメドくんの いのちのリレー

  • 集英社 (2011年8月26日発売)
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イスラエル兵に撃たれたパレスチナ難民キャンプ(ジェニン)に住むアハメドくん、12歳。ハイファの病院で脳死を宣告され、臓器提供を提案された。臓器の提供先は選べない。イスラエル人になるかもしれない。しかし、アハメドの父イスマイルは同意した。
アハメドの臓器は六人のイスラエル人に提供された。一人は遊牧民ベドウィン、もう一人はイスラム教徒だったがあとの四人はユダヤ人(つまりユダヤ教徒)だった。
著者の鎌田さんがアハメドくんの父と心臓を移植された少女に会いに行く。
しかし、この少女はドゥールズ派(イスラム教)。イスマイルが交流しているもう一人のレシピエントもベドウィンであり、ユダヤ人四人とは交流を持てていない。一名は亡くなったそうで、その人がベドウィンなのかユダヤ人なのかは明らかにされていないが、少なくとも三人のユダヤ人がアハメドの臓器を受け取ったわけである。
この三人とイスマイルが交流できていたら、と考える。この三人はパレスチナ難民の、イスラエル人に殺された少年の臓器をもらったことを知っているのだろうか。
本は、こういった点には触れず、あくまでイスマイルの決断の立派さとこれからの平和を願うという内容。
かなり情緒的な印象を受けるが、パレスチナの政治的な問題を描くより人の心に訴えるだろうし、子どもにも読みやすいだろうから、これはこれで良いのかもしれない。また、鎌田さんがこういったことに関わり続けるのは、彼自身が血の繋がらない両親に愛されて育ったからだということも語られており、納得できる。
しかし、アハメドの臓器提供が2005年、それから18年経ち、臓器を提供された人たちは今、何を考えているだろう。アハメドが死ななかったら、今どうしているだろうと思う。今回のガザの攻撃について。
こういった本が平和を呼べば良いが、みんな大切な人間、仲良くしよう、というだけでは難しいということを痛感する。この本をバイデンやブリンケン、ネタニヤフにプレゼントしたら、立派な父だ、平和は大切だ、と言うだろう。しかしガザ攻撃を止めるか?と聞かれれば、止めないと言うだろうとも思う。
むしろ世界的に起こっているデモの方が力があるかもしれない。
これ以上人が、子どもたちが殺されないために、何をしたらよいか考えねば。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年11月16日
読了日 : 2023年11月16日
本棚登録日 : 2023年11月16日

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