モラルの話

  • 人文書院 (2018年5月30日発売)
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クッツェーも歳を取ったんだなあ。
「私たちは歳をとると、肉体のあらゆる部分が劣化したり混乱に陥ったりして、それが細胞にまでおよぶ。古い細胞が、まだ健康であっても、秋の色に染まる。これは脳細胞にも起きる。(中略)秋を迎えた脳が思いつく欲望は秋にふさわしい欲望で、幾重にも記憶に彩られたノスタルジックなものになる。もう夏の熱気はない。たとえその欲望が強烈であっても、その強度は複合的で、多面的で、未来より過去に向かうことが多い。(P56~57)」ホントね、上手いこと言うわ、としみじみ思う。
「本当の真実は、あなたは死にかけてるということです。本当の真実は、あなたは片足を墓の中に突っ込んでいるってことです。本当の真実は、すでにあなたはこの世では無力で、明日はさらに無力になり、日一日とそれは進んで、もう手の打ちようがなくなる日がやってくるということです。本当の真実は、あなたは交渉する立場にないこと。本当の真実は、あなたはいやだとは言えないこと。本当の真実は、時計が時を刻むことに対してあなたはいやだとは言えないということ。」(P108)畳み掛ける老いの真実。
しかし分娩中の猫やベルトコンベアにのせられたひよこに対する優しさもある。優しさなんて言ったら怒られそうだけど。「長靴を履いた男が、たとえばあなたが分娩中で攻撃を受けやすく、無力で、逃げられないことをいいことに、あなたを蹴り殺すような世界に私は生きていたくない。わたしの子供たちが、ほかの母親の子供たちにしても、数が多すぎるという理由で、母親から引き離されて溺死させられるような世界に生きていたくないの。」(P87)
パワーは衰えたかな。昔よりとっつきやすくなった気がするクッツェー。でも知的で毒気たっぷりは変わらず。今後さらに老いを見つめた小説を書いてくれることを祈る。
しかし、猫に性格はある。表情筋が少ないのは群れで生活しないからで、表情があまりないからって感じていないわけではない。人間もそうだけど。それに、意外と表情あるよ。一緒に暮らしたらわかる。
あと、P52のミズスマシってアメンボの間違いではないのかな?足が長い羽虫とあるから。ミズスマシは足そんなに長くないし甲虫だよね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年10月17日
読了日 : 2018年10月17日
本棚登録日 : 2018年10月17日

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