貸出禁止の本をすくえ!

  • ほるぷ出版 (2019年7月25日発売)
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感想 : 65
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主人公は小学4年の本好きの少女。大人しくて、自己主張が苦手。学校図書館で大好きな『クローディアの秘密』が貸出禁止になったことから、友達と抵抗運動を開始する。
まず、貸出禁止になった本を買ったりもらったりしてかき集め、密かに貸し出す、ロッカー図書館を運営する。
それがバレて、校長に出席停止を命じられると、今度は奇策にうって出る。
物語がテンポよく、登場人物達も個性があって、読み物として面白い。それだけでなく、「いい本」を誰が決めるのか、表現の自由、間違っていると思うことがあったら正しいやり方で戦う、といった大切なことがきちんと書いてあって、アメリカの良心を感じた。
日本とは比較にならないほどアメリカの司書の地位は高いことにも驚く。そもそも図書館学でドクターを持っている司書なんて日本にはほとんどいないだろう。(就職先がないから。研究者の椅子は極めて少ないし、ドクターの司書がいる図書館なんて国会図書館くらいじゃない?)それほどの人材なら、この本にあるように、学校の図書について異議があれば、教員で作った委員会で協議した後、最終決定を下すのは司書というやり方ができる。求められる能力も高いが、報酬も権力もちゃんとある、というのが司書のあるべき姿だという気がする。

この本で貸出禁止になった本は実際アメリカの図書館で異議申し立てや貸出禁止措置を受けた本だということだが、『クローディアの秘密』『マチルダは小さな大天才』『ギヴァー』など名作ばかりで驚く。
しかし、それだけ図書館の子どもの本に関心の高い人が多いとも言える。日本では『はだしのゲン』が一時問題になったが、あれはどちらかと言うと政治の右傾化が影響したという感じだし、マンガだし(きちんと読まなくても、刺激的な絵や表現のところだけ見て言うことができる。)。児童文学を読んでいる大人がどれだけいるだろうか。貸出禁止措置は頓珍漢だが、(内容をきちんと読めていれば、どんなに素晴らしい本かわかるわけだから。)児童文学に関心がある大人が、日本よりは多いとは言える。
アメリカは日本以上に読書離れが激しいんじゃないかと思っていたので、これがどれくらいリアルなアメリカの小学生に近いかは気になるが、この本に共感できる子どもが一定数はいる、というのはすごいなと思う。日本の小学生で『クローディアの秘密』や『ギヴァー』や『豚の死なない日』を読める子どもがどれほどいるか。
しかし、じゃあ日本の児童文学で『クローディアの秘密』や『ギヴァー』などに相当するほどレベルの高い物語があるかと言われれば、多分ない。そこが、日本で児童文学が低く扱われる理由だと思う。
子どもにもいいけど、子どもの本に関わる大人にも読んでほしい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年9月15日
読了日 : 2019年9月15日
本棚登録日 : 2019年9月15日

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