明日をさがす旅 故郷を追われた子どもたち (世界傑作童話シリーズ)

  • 福音館書店 (2019年11月13日発売)
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1939年、ナチスの迫害を逃れるためユダヤ人の少年ヨーゼフはキューバ行きの客船に乗り込む。1994年キューバの少女イサベルは生活苦と抑圧から逃れるため、隣人の手製のボートでフロリダを目指す。2015年シリアの少年マフムードは戦争難民となり、ゴムボートに乗ってヨーロッパを目指す。
時代も場所も違う三人が家族とともに生きる場所を求めて船に乗り込む。
三人の物語が交互に出てくる。個人的にこういう形式が大好き(『楽園への道』とか『すべての見えない光』とか名作も多い)だし、アラン・グラッツは『貸出禁止の本をすくえ!』が良かったので、大いに期待して読み始めた。
三人が新しい土地で暮らし始め、徐々に関係が見えてくるという物語かと思ったが、そうではなく、たどり着くまでの旅路の話がメインだった。三人が直接かかわりあうことはなく、物語の最後のほうにちょっとつながりが出てくるだけ。そういう意味では期待とはずいぶん違っていたのだが、「難民」の過酷な現実がリアルにが伝わってくる。

私たちは、日ごろ意識はしないが様々なものから守られて暮らしている。働けば給与がもらえるし、病気になれば病院へ行ける。収入がなければ社会保障が受けられる。学校に行って教育が受けられる。しかし難民になるということは、それらすべてを手放すだけでなく、最低限の食べ物すら手に入れられず、眠る場所もなく、常に命の危険にさらされることを意味する。それがわかっていて、それでも国を出たい、ということは、生半可な状況ではないということは想像できるが、私たちはその人の立場に立ってみるということをしない。だから平気でいられる。
2015年、つまり現代のシリアの少年マフムード一家は赤ん坊もいるのにゴムボートでトルコからヨーロッパに渡ろうとする。ゴムボートは明らかに定員オーバー、ライフジャケットは使い物にならない。途中でボートが壊れ、海に投げ出される。希望は、たった一つ。ドイツが難民を受け入れてくれること。
この少年が自分だったら?荒れた海で死にかけ、収容所に入れられて犯罪者のような扱いを受け、入ろうとした国はフェンスで囲われている。何ひとつ罪を犯したわけでもないのに。ただ生まれた場所と時代がひどかっただけなのに。
アメリカに向かったイサベル一家も、ユダヤ人のヨーゼフ一家も、安住の地に簡単にはたどりつけない。

ドイツも、イサベルを受け入れたアメリカも、現在は難民受け入れを減らしている。日本ははなからほとんど受け入れていない。そこには、自国を守る意識はあっても、他者への思いやりはない。
難民が出ないように、戦争や経済危機、宗教や人種による差別をなくすことが重要だが、現在すでに存在している難民に対して手を差し伸べることも必要ではないか。
子どもたちにこうした人が今も世界中にいることを知る機会を与えなければ、決して問題は解決しない。

三人の物語が交互に、という形式が、読解力のない子供には難しいかもしれないが、読んでほしい。大人にも。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年1月2日
読了日 : 2020年1月2日
本棚登録日 : 2020年1月2日

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