明るく度胸があり素直な著者の人柄が伝わる。
タイトルだけ聞くと「大変な苦労をしたってことかな」と思うが、それは「闇」にネガティブなイメージを晴眼者が持っているからで(「闇に葬る」「闇市場」「闇取引」など「闇」のつく言葉にポジティブなものはほとんどない)、全盲の人にとっては闇が普通、暗くも怖くもない、希望に満ちた世界なのだ、と著者は書いている。
だとすると当然このタイトルの意味も違ってくる。
暗い中を不安と恐怖にさいなまれながら泳ぐのではなく、温かくて居心地のいい場所で希望を抱きながら進むということ。
そういう発想の転換ができるのも良いと思う。
著者の木村さんが気負わない人である上、障害を苦にすることもなく全体に明るい雰囲気はあるものの、不眠症に苦しめられたり、アメリカで言葉も通じない中で悪戦苦闘したりと苦労もあった。しかし、それでもチャレンジして克服していく姿は、勇気を与えると思う。
著者がまだ若いので、これからもいろいろなことがあると思うが、また書いてくれるといいなと思う。
視覚障害のある人の水泳が、晴眼者の水泳とどう違うのかも初めて知った。泳ぐこと自体は同じなのだから同じだろうと思っていたが、コースロープに手が当たる感覚を頼りに泳ぐとか、「タッパー」と呼ばれる人がターン地点とゴール地点にいて距離を知らせてくれる、など。
タッパーがいないと水を掻く回数を数えて壁までの距離を考えながら泳ぐ(ためタイムは落ちる)が、数え間違うと壁に激突したり突き指したりしてしまう。全力で泳ぐためにはタッパーが必要だが、タッパーが下手だとタップしそこねてやはり壁に激突してしまう。マラソンの伴走も大変そうだが、タッパーにも大きな責任がある。
『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』の白鳥さんも言っていたけど、木村さんも「目が見えるようになりたいか」という問いにNOと答えている。
外国に行っても相手の身振り手ぶりや表情がわからないと、会話力だけの勝負になるというハンデはあるが、逆に相手がどんな人種だろうと年齢だろうと見た目だろうと、自分と合う人と仲良くなれるのはいいな、と思うし、それだけ見える人は偏見を持ちやすいということを忘れてはいけないなと思う。
- 感想投稿日 : 2022年1月16日
- 読了日 : 2022年1月16日
- 本棚登録日 : 2022年1月16日
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