41歳で止まってしまった作者死後にまとめられた最後の作品集という。しかし、どうしてこんなにみずみずしいのだろうか。生前芥川賞候補に何回もなりながら受賞しなかったというが、これこそ芥川賞じゃないか!
文章リズムの若々しさと、雰囲気がえもいわれぬ。そして何しろ登場人物たちの会話がいい。エスプリとはこういうものを言うので。
例えば「夜、鳥たちが鳴く」の一節
(浮気をされた友人の妻が、主人公の借家に飛び込んできて同居する羽目になったのだが、友人妻のやけくそ行動に心穏やかならず、ついになるべくしてなってしまったその後に・・・)
・・・・・・・
「なんだ」
「あたし、どこかおかしい?」
男のことだとわかった。考えるふりをした。慎重に言葉を選んだ。まず、首を振った。それからいった。
「ただ、とっかえひっかえじゃ、疲れないか」
「かもしれないわ」
「それでいいと思っていたんだろ」
「ええ」
「俺ならしない」
「あんたはあたしじゃないわ」
「でも、自分でやっておいて、そんなことを喋ることはないだろ。違うか」
「かもしれないわ。・・・・・・・
収められている5つの短編がそれぞれ、言葉と言葉、文章と文章の間のきらめきを感じる。
古いところで長塚節氏「土」の文章と会話のリアリズムになぞらえてしまう。あれは俳句的な要素もあったが、ここでは現代詩的要素と言いたい。短編それぞれのタイトルがいいのは前にも言った。
またこの文庫本の堀江敏幸さんの「陽の光は消えずに色を変える」解説が抜群、すっきりとよくわかるこれ以上の解説はないと思う。(堀江敏幸さんは未読なのでぜひ読もう)
- 感想投稿日 : 2020年8月12日
- 読了日 : 2020年8月11日
- 本棚登録日 : 2020年8月12日
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