暗黙知の次元 (ちくま学芸文庫 ホ 10-1)

  • 筑摩書房 (2003年12月10日発売)
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感想 : 86
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本書は形而上学の復権を目指した本である。著者はスターリン時代のソ連において経験主義的唯物論が全体主義の道具になるのを目撃した。著者は新たな形而上学の基礎を存在論ではなく生命論に求める。物質的要素を総合する暗黙的な知が存在する。それは創造性の根源であり、生命進化の推進力となったものである。物質主義に対して生命的形而上学を措定しようとする試みは、ベルクソンの哲学と類似する。最後に著者は意識の発生や道徳の進歩の基礎を生命論に置こうとする。経験・実証主義哲学に対する異議申立てを試みた非常にラジカルな哲学書である。

近代科学は中世神学と結びついたアリストテレス形而上学を論破することから始まった。しかし物質主義的経験論は人間の横暴や残虐を諌める力を持たなかった。宗教も形而上学も死んだ近代で、人類は何を拠り所として生きるのか?その答えの一つとして提示されたのが生命哲学である。

本書は本来であれば数巻にも及ぶ大著となるべき内容をわずか100ページ余りに圧縮して記述している。これだけの内容をコンパクトに記述した知性とその熱意には感服せざるをえない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学
感想投稿日 : 2013年6月20日
読了日 : 2013年6月20日
本棚登録日 : 2013年6月20日

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