O・ヘンリ短編集 (1) (新潮文庫)

  • 新潮社 (1969年3月7日発売)
3.69
  • (101)
  • (132)
  • (200)
  • (12)
  • (5)
本棚登録 : 1382
感想 : 109
2

ちゃんと読み返すのは、十年ぶりだろうか。今読むと、訳文の文体が非常に完成されている印象を受けた。気障ったらしいが、嫌味を感じない。これを超える訳は、早々ないのではないかと思ってしまった。
しかし惜しむらくは、オーヘンリーの作風を知っているために、殆どの作品の結末がある程度予想できてしまうところだ。どこかに短編の物語の朗読屋がいて、作者を知らさずに読み聞かせてくれたらさぞや楽しめるだろう。

以下、作品ごとに思ったことを少しばかり書き記す。
『アラカルトの春』 原文で読まないと最後の結末がしっかりと味わえないかもしれない。
『黄金の神と恋の射手』 キューピッドなんていないのね。
『馭者台から』 最後まで読んでから、もう一度冒頭を読むと、より一層ジェリーの仕事の熱中ぶりが感じられる。
 『水車のある教会』 気持ちが切ない時は、好きなだけ静かに泣くのが良い、というのは全くもってその通りだと思う。また、この作品だけは結末が少しひねってあり、チェスター嬢とエイブラハム神父の関係性が分かった後も、思わず口を綻ばせてしまった。もっとも、最後の結末に喜ぶのは、男性だけかもしれないけれど。
 また、個人的に思ったことだが、何十年も離れていてようやく出会えたとしたら、再開できた喜びももちろんあるだろうけれど、再開してしまったことによる苦痛や後悔もあるのではないだろうか。再開できないことで、生き別れの娘や父への思いが、歳月を経るとともに極端に美化されており、その思いが突如として壊されることは少々残酷なことかもしれない。勿論、作品自体はこの結末でスッキリと終わっているのだけれど、一度考えると少し物足りなさを感じる。オーヘンリーは短編の名手ではあるが、これほどの観察眼を持っているのだから、長編作品などでより深く多様な人間の姿を描いて欲しかったと、少し残念に思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 純文学
感想投稿日 : 2020年6月21日
読了日 : 2020年6月20日
本棚登録日 : 2020年6月21日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする