恋をするから小説の題材が生まれるのか
それともわたしは小説の題材を得るために恋をしているのか
そんな問題がはっきり取りざたされるようになるには
堀辰雄の「風立ちぬ」を待たねばならない
しかし滝井孝作が「無限抱擁」を書いた時代にも
その問題は、漠然とした不安として作家を苛んでいたようである
「無限抱擁」とは、いってみればつまり
信頼と疑いで無限に形成される入れ子構造のようなものだ
「愛されている」という信憑が
「愛されてない」という疑念に覆われたならば
それはまた「愛されている」という信憑で
覆いかくされなければならない
永遠に繰り返されるそんな作業が、ここでは
作中作の中にまた作中作があるという形で表現されている
しかしそれも所詮はごまかしの思い込みにすぎない
そのことが、妻の死によって、残酷にも明らかにされていく
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- 感想投稿日 : 2016年12月17日
- 本棚登録日 : 2016年12月17日
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