倫敦塔・幻影の盾 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1952年7月14日発売)
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本棚登録 : 875
感想 : 57
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端正なお顔に髭が立派で癇癪持ちの小説家である前に「英文学者」なことに気付かされ、やはり漱石先生は英国の文学のみならず文化、歴史に学者+東大ならではの能力で吸収したんだな!と気づき、そういう認識の薄かったことにびっくりしてしまった。そうです、漱石先生はそういう能力のある人なのです。

文語、漢文読み下し文は読了に困難。
イギリスでの体験から来る4編は英文学の知識と文化的建造物?を前に漱石が空想の世界へすうっと入っていく調子が分かり、ものすごい創作力。残る言文一致の2作は江戸っ子ならではの口調に、英国文学をまったく匂わせないし、1編の詩的な情景は甘美。
これが専業作家前夜の作品群とはすばらしいさまざまな文体。
英国でも神経を病んだようだけど、その後も妻に狂気と思われる激しい幻想癖。今なら不思議くんで通れるのにと思われる夢想家な様子を思い描く。

とにかく色彩に満ちた作品群。描かれているアーサー王やイギリスの騎士物語はアン(赤毛の)が扮したり朗読した物語でもあったことに気づき、それらはアンがあこがれ、漱石先生も憧れた懐かしい物語に再会した気分。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 読了困難
感想投稿日 : 2016年6月14日
読了日 : 2016年6月12日
本棚登録日 : 2016年6月14日

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