零式戦闘機 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
3.75
  • (19)
  • (32)
  • (25)
  • (1)
  • (4)
本棚登録 : 299
感想 : 23
4

物語は著者である柳田さんが堀越二郎氏にインタビューする場面から始まる。
インタビュー時の堀越氏の年齢は72歳。
そもそも柳田さんが零戦に関心を抱いたきっかけは新聞の投稿川柳だった。
「ゼロ戦の心長髪族知らず」
では「ゼロ戦の心」とはいったい何なのか?
掲載紙である読売新聞紙上で、読者の投書による論争が始まったのだ。
飛行機の構造について何ひとつ知識を持たない私にもわかるように、とても丁寧に当時の様子が再現されていた。
まったく新しい発想による戦闘機の開発。
若き技術者たちが集まり、それぞれの得意分野において全力を尽くした結果が「零戦」という形をとったのだとわかる。
わずかな狂いも許されず、軍部からの要求はとても現実的とは思えないようなものばかり。
開発にかけられる時間も限られている中で、どのような飛行機を作っていくのか。
全体の形は?翼は?速度優先にするのか、強度優先にするのか。
「えっ、そこから?」と思うような本当にゼロからの出発だった。
零戦開発者として堀越氏の名前は有名だが、ひたすら計算に明けくれた者や何度も何度も設計図を書き直した者など、多くの人間の努力と苦労と工夫の結晶だったのだと、あらためて知ることができた。
試運転飛行での事故で失われていく機体。不具合を確かめようとして犠牲になった命。
もちろん戦闘機は戦争のための凶器だ。
それでも、堀越氏たちの海外に負けない性能を持った飛行機を日本人の手でという熱い思いが伝わってくる。

世界の最先端飛行機となった零戦も、他国の激しい技術開発に飲み込まれていく。
あまりにも有能すぎたために、軍部が新しい開発の時期を逸したこともポスト零戦の登場を遅らせた原因のひとつだろう。
規則が絶対と言われてた軍の担当官にも、堀越氏もいっさい臆することなく進言している。
技術者の誇りと自信があればこそ零戦は完成したのだろう・・・とも思う。
ひとつの工業製品が、まったく新しい発想を持つ人たちの手によって作り上げられていく過程が素晴らしかった。
技術後進国と言われている自分たちにも出来るのだ、やってやるのだという気概が、当時の人たちのようすから感じ取れる作品だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年3月2日
読了日 : 2017年3月2日
本棚登録日 : 2017年3月2日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする