暗黒学校 (上) (アルファポリス文庫)

著者 :
  • アルファポリス (2013年1月25日発売)
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感想 : 14
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上下巻読み通しての感想

読み始めてすぐに「あれ?デジャブ?」。
この設定、この状況、確かに読んだことがある。
山下貴光作「ガレキノシタ」だ。
ある日突然、地下に埋没してしまった校舎。
中に取り残された生徒たち。
そこで起きる生き抜くための戦い。
ちなみに、この「暗黒学校」のほうが先に出版されている。
極限状態の中で徐々に疑心暗鬼になっていく生徒たち。
誰かのせいにして、誰かが悪者だと決めつけて、ただ安心したいだけだったのでは?と思う。
結局は、先の見えない状況で不安に駆られた生徒たちが、互いを信じられなくなった結果の争いだ。
普通なら誰もが元の世界に戻りたいと思うだろう。
けれど、極わずかだが戻りたくない人間もいる。
混乱の中ではリーダーの役割がいかに大きなものか、物語の中に登場するリーダーはその難しさをよく表している。
「リーダーは平等で、公正でなくてはならない」
確かにそうだ。
リーダーが自分の我を押し通そうとしたら、それはもうリーダーではなく独裁者だ。
たとえ自分がどうしても守りたい人がいたとしても、他の人間から賛同を得ることはできない。
独裁者に懲りた生徒たちは、明文化したルールにのっとって生活しようとする。

「一応、罰則のようなものも設けようと思うんだ」
「一応設けておかないと、ルールがちゃんと機能しないかと思って。ノルマ未達成だったら、例えばちょっときつい仕事を割り当てさせてもらう。
意図的にサボタージュを繰り返すような悪質な場合は、禁固刑も考えている」
罰則を設ける・・・この時点で、ルールを決めた委員長自身が他の生徒たちを信用していないことがわかる。
守らない人間が必ず出る。
そう思っているから罰則まで作ろうとしたんだと思う。
一応・・・とは断っていても、一度明文化したらそれは絶対になってしまう。
非常時では最低限の共通認識さえあれば、あとは臨機応変に動いたほうがいいのかもしれない。
ルールを作ればそれに縛られる人がでてくる。
ルールを楯に、理不尽と思えるようなことでも押しつける人がでてくる。
後半に進むにつれて生徒たちの心の動きが激しくなる。
誰かを黒だと叫ぶやつ。
先に誰かを疑って、先に誰かを黒だと決めつけてしまえば、自分は白でいられるから。
その時々の状況で、常に一番力のある人間に擦り寄るやつ。
力のある人間に自分は特別な人間だと思い込ませたい。
何があっても自分だけは助かる確立を高めておきたいから。
究極の状況で、やがて生徒たちは自滅していく。
彼らが悲惨な最期を迎えなければならなかったのは、たぶん自分の弱い心に負けてしまったから。
でも、人間なんてそんなに強いものじゃない。
小気味いいほどに最悪な性格のアサミが、一番正直な人間に見えたのは何故だろう。

唐突に、あっけなく物語は終わる。
救いのないこの物語の最後にふさわしい気がした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ホラー小説
感想投稿日 : 2017年3月14日
読了日 : 2017年3月14日
本棚登録日 : 2017年3月14日

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