地の果て至上の時 (新潮文庫 な 11-3)

著者 :
  • 新潮社 (1993年7月1日発売)
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感想 : 14
4

この小説、中上健次文学の集大成、到達点と感じた。中上健次の小説は同じようなモチーフが繰り返し描かれる。だがこの小説では秋幸の山仕事や事務所での業務の様子など、中上の他の小説ではあまり出て来なかった“新たな”場面も多く、新鮮に感じながら読み進めた。

秋幸の仕事や生活の細部がきっちり描き込んであることで地下足袋で大地をしっかり踏みしめた如く、物語の足腰や骨格のしっかりした感触がある。一方で、中上特有の地霊の息づかい、神話的なモチーフもまた随所に織り込まれている。そのため重層的で味わい深い。
紀州 新宮市を舞台としドメスティックなのだが、奥行きのある器の大きな物語が書き込まれている。

じょうずにまとめきれていない感はあるが、ゴツゴツした感じ、混沌とした様相そのものが味わい深い。終盤など、“中上さんそろそろこの辺ですっと筆を置こうよ?”と思うのであった。…などなど構成技術はあまり洗練されていなくて、完成度は高くない感じもある。だが、それもまたよし。骨太なものや、生臭い肉塊や、さらには神話的なものまで、まるごと放り込んである。そういうありようをママ受け止め味わえればいい。

さて、秋幸は常に秋幸である。そして、浜村龍造は常にフルネームの浜村龍造なのであった。
鉄雄という青年も登場。彼は焦燥と疾走を体現した存在で「 十九歳の地図 」に連なるものを感じた。さらに余談だが、シシ撃ちの場面ではフォークナーの熊撃ちの小説を思い出した。
秋幸三部作とされる「岬」「枯木灘」「地の果て 至上の時」。これまで「岬」「枯木灘」は既読。
そして本作は、構想、ディテールともに圧巻の完成度である。

さて、私は以前読んだ「鳳仙花」での秋幸が印象に残っていた。「秋幸は優しい男だった」という一節を覚えている。「鳳仙花」での秋幸は若くして病で亡くなった。そして今回思い至る、秋幸の人生は中上文学では作品ごとに少しずつ異なるかたちで描かれている。
本作「地上の果て…」では秋幸の人物像や生き様を存分に味わえた。

※各頁びっしり書き込まれており、尚且つ独特の中上節文体もあり少々読みづらく、しかも600頁超の大部。こりゃ4週間位かかるかな…と思いながら読み始めた。だが、結局2週間ほどで読み終えたのであった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説・文学 (国内・戦後)
感想投稿日 : 2023年10月16日
読了日 : 2023年10月14日
本棚登録日 : 2023年9月24日

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