キャリアポルノは人生の無駄だ (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2013年6月13日発売)
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そもそもタイトルになっているキャリアポルノという言葉がピンとこなかった。「私が最初に使い始めた「キャリアポルノ」という言葉が流行っています」と言われても知らないから「そうなの?」という感じ。「森ガール」くらいなら「そうなんだ!」とも思えるが・・・。個人からすると自分が最初に使った言葉がgoogleの検索で何万もひっかかれば「流行をつくった!」と思うのかもしれないが、世界でみれば本当にローカルな世界での流行なのだろう。

ひたすら自己啓発書は役に立たないとこき下ろす展開だが、あまりにもデータの無いところでの決めつけや思い込みが激しい。同作者の「日本が世界一貧しい国・・・」は「そうそう!」と同意できる箇所もあったが、「自己啓発書を読んでいる人がたくさんいるのに日本が良くなっていないから役に立っていないのでしょう」という論理展開はどうなのだろう。ノマドにしても自己啓発オタクにしても何か見えない仮想敵を想像して闘っているような、どうもそんな本人の感情が入りすぎている気がする。だからこそ「この人本当は自己啓発書を読むタイプと本来は同じタイプなんじゃないかなあ。同族嫌悪しているのではないかなあ」とさえ勘ぐりたくなる。


中盤からの展開を読むとやはり過去に自己啓発書をたくさん読んだ「意識高い系」を目指した著者の過去について触れられており、自己啓発書への恨みは個人的な怨念も含まれることがわかった。歴史的背景から革新的なアメリカ(自分も社会も変われる)と保守的なヨーロッパ(人も社会も変われない。あるがままを受け入れる)の対比は面白い展開だった。

しかしやはり著者のターゲットとしている読者は「3分でできるXX」とかを盲信してしまう人であって、ちょっとした気持ちの回復やいくつかある方法論の選択肢の追加という読み方をしている読者には「どこにそんな人いるの?」と首をひねりたくなる内容だ。

自己啓発書は多少たりとも心が上に向けば良しと思って読んでいる人もいれば、即行動に結びつかない、問題解決をしない、というのを承知おいて読んでいる人もいるだろう。そういう意味では大半の書物が価値を失ってしまう。なんとなく多くの人が自己啓発書を見て「ネタっぽいなあ」と思ってスルーしているところにマジレスでこき下ろしているような白けた空気感が本書にはある。

しかし、その自己啓発書を批判している本書はどのような価値を生み出しているのだろうか?
読んでいて朝井リョウ氏の小説『何者』を思い出した。少なくとも自己啓発書を出版している人も悩んだりあがいたりして行動しているわけで、それを端から見て石を投げて満足するのでは、結局同じポルノなのではないだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 自己啓発
感想投稿日 : 2013年6月19日
読了日 : 2013年6月19日
本棚登録日 : 2013年6月19日

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