紅茶スパイ: 英国人プラントハンター中国をゆく

  • 原書房 (2011年12月1日発売)
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アヘン戦争後、英国には、中国からの輸入に頼っていた紅茶をインドで生産したいという野望があった。
そこで、東インド会社から、中国の茶の木を盗み出す任務を与えられたのが、プラントハンターのロバート・フォーチュン。
彼は、辮髪をして中国人に変装、当時西洋人が踏み込んだことのなかった中国奥地に入る。彼が手に入れた茶の木の苗と種は、インドに根付く。
英国へ安く供給できるようになった紅茶にミルクと砂糖を入れることで、貧困層の安価な栄養補給となり、それまで労働者の飲んでいたビールに代わることで、労働力を上げ、産業革命の原動力となった。

紅茶という嗜好品が世界を変える、このストーリーは面白く興味深いものの、この本自体は読みすすめるワクワク感がない。それは、単に事実を並べるだけで教科書的すぎて、ぐっと物語へと引き込むような力が不足しているから。
紀行文的な部分と世界状況の説明、そのまとめ方がうまくいってないので、どうも読みにくい。
地図、図版、年表、英国の紅茶の消費量の変遷のグラフなどの補足資料があればもっとわかりやすかったのに。

紅茶と緑茶は同じ木である、ということは説明されているものの、その違いは何なのか、というのが説明されてないのは不親切。
他にも、紅茶と緑茶は同じ木であるのに「当時、インドには紅茶畑はなく、緑茶畑しかなかった。」などという記述があり混乱する。(インドには、紅茶に適した茶の木ではなく、緑茶に適した茶の木しかなかったということか?)

せっかくのおもしろい題材なのになぁ、残念な感じ・・・。

ここでも謎だったのが、茶の歴史の本に必ず出てくる「ボヒー茶」(bohea tea)の存在。これは烏龍茶なのか紅茶なのか?
1772年のレットサムの「茶の博物誌」によれば、「茶の種類は、大きく分けて3種類の緑茶と5種類のボヒー茶に限られる」とあったりする。ということは、ボヒー茶が改良されて紅茶になったのか? もっと調べてみたいとこ。

あと、帯では「19世紀、中国がひた隠しにしてきた茶の製法とタネを入手するため、」とあるがこれは間違い。
「茶の博物誌」にも英国で種が発芽したとあり、茶の精製についても詳しく書かれており、ヨーロッパの葉っぱを茶にする試みもされている。

原題「 FOR ALL THE TEA IN CHINA How England Stole the World's Favorite Drink and Changed History 」を「紅茶スパイ」というキャッチーなタイトルにして、「アヘン戦争直後の激動の時代を背景に、ミステリアな紅茶の歴史を描いた、面白さ抜群の歴史ノンフィクション!」というおもいっきり盛った帯をつけ、新聞各紙の書評担当の目に止まるようにした編集者の勝ち。

参考
「茶の博物誌」(ジョン・コークレイ・レットサム)
http://booklog.jp/item/1/4061595768

香港大学の図書館のHPにあるロバート・フォーチュンの中国の旅行記
http://ebook.lib.hku.hk/CTWE/B36598719V1/

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2013年3月4日
読了日 : 2013年3月3日
本棚登録日 : 2013年3月4日

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