ドノソである。あの「夜のみだらな鳥」の。
その昔、たき火をするときの焚き付けの古新聞で目にとまった筒井康隆の署名記事。そこで紹介していたのが「夜のみだらな鳥」だった。そのかっこいい書名、富豪が奇形のわが子のため、国中の奇形を集めて奇形の街をつくる、という異様なあらすじと筒井の大絶賛に、これは読まねば、と焚き火にあたりなががら思った。
しかしながら古書価格はすでに高騰、買いどきをずーっと探していたところに、ドノソの新訳本が水星社から出るとのニュース、しかも、「夜のみだらだな鳥」も復刊されるらしい!との知らせ。
と、肩慣らし(?)に「境界なき土地」を読む。
帯に「性的「異常者」たちの繰り広げる奇行を猟奇的に描き出す唯一無二の〈グロテスク・リアリズム〉。」これは、期待!・・・・うーん、水声社、煽りすぎ。
電気も通じないさびれた田舎町、初老のおかまマヌエラと処女で不器量な娘ハポネシータの親子が切り盛りする売春宿を舞台にしたどしようもない物語。
行き止まりの閉塞感ながらも、妙な心地よさが全体を覆う。
三人称と一人称が混じり、会話文と地の文がそのまま続くリズムのある文章が、へんな酔い方をさせる。
土地にしがみつくハポネシータに「風と共に去りぬ」のスカーレットが重なる。
期待していた内容とは違ったが、圧倒的な力をもつ物語。すごいものを読んだのかも。
この感じ、誰だっけ?と思ったら中上健次。舞台を紀州に移したらそのまんま。
中に「ペチャパイの家」という売春宿が出てくるが、ええ、そんな訳なの???と思ったが名前だった・・・ペチャパイ。
訳者あとがきもなかなか面白い。
ドノソの伝記を書いた養女は自殺したそうである。ドノソの創作ノートには、「作家の父親の死後、日記を見つけた娘が自殺する」との小説の構想があった。
死の床にいたドノソを見舞ったリョサが「ヘンリー・ジェイムスはくそだよ」というと、ドノソは「フロベールのほうがくそだよ」と返した。これが二人の交わした最後の会話となった。
映画化を希望していたのがブニュエル。実現しなかったが、別の監督による映画化の際に脚本を書いたのが、マヌエル・プイグ。
「夜のみだらな鳥」が楽しみ。
- 感想投稿日 : 2013年12月12日
- 読了日 : 2013年12月10日
- 本棚登録日 : 2013年11月29日
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