オーブランの少女 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社 (2016年3月20日発売)
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感想 : 105
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「オーブランの少女」☆☆☆☆
 病気を抱えた少女たちが集められるサナトリウム(療養施設)があった。そこでは治療と同時に教育も受けられる。しかし、そこでは少女たちは本名ではなく花の名前で呼ばれ、家族を含めて外界と隔絶された生活を送っていた。
 どうやら施設には秘密があるらしい。安易に人身売買のための施設かと考えたが、それでは説明のいかないことも多い。果たして真相は?
 オーブランの庭園の描写がきれいだった。緑豊かな様子、庭園に差す光。『この本を盗むものは』で見られた色彩豊かな情景描写の原点はここにあったのだな。

「仮面」☆☆
 主人公の男アトキンソンは医者をしている。ある患者のメイドの妹はとても美しい少女で、彼は恋をしてしまう。そして、メイド姉妹がひどい扱いを受けていることを知った男は主人の殺害を計画する。
 なんとなくオチが読めてしまうのと、悪意に塗れただけの世界が好きになれなかった。

「大雨とトマト」☆☆
 男が営む飲食店に少女がやってきて、「父を探している」という。男には妻子がいるが、むかし一夜だけ関係を持った女がいて……。
 またもオチが読めてしまううえにイヤミス。

「片想い」☆☆☆
 主人公の少女は女学校に通っており、同室には同級生にも下級生にも慕われる人気者の友人がいた。二人は親友関係にあったが、友人は何か隠し事をしているらしい。
 オチは読めるが後味は悪くない。

「氷の皇国」☆☆☆
 ある皇国で、皇位継承権のために皇女が弟である皇子を殺害する事件が起きた。しかも皇女はその責任をメイドや兵士になすりつけて処刑しようとする。弁明しようにも、裁定人となる皇帝もまた傍若無人で、憶測による皇族への反論を許さない。
 皇女が犯人であることが明らかな殺人事件において、禁止カードが多い中でどうやって皇女の罪を明らかにするかと考えるのが面白い。ただ、最終的な解決策が禁止カードの一つで、「実はこれ禁止じゃないんですよね」という感じで出てくるのが納得いかなかった。それでも、閉ざされた国の寒々しい情景は印象に残った。深緑さんにはやはり情景描写が生きる作品を書いてほしい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年9月6日
読了日 : 2021年8月13日
本棚登録日 : 2021年9月6日

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