フランス革命: 歴史における劇薬 (岩波ジュニア新書 295)

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  • 岩波書店 (1997年12月22日発売)
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遅塚忠躬(1932~2010年)氏は、東大文学部卒、東大大学院中退、北大文学部助教授、東京都立大学人文学部教授等を経て、元東大文学部教授、お茶の水女子大学名誉教授。専門は西洋史学。
フランス革命は、世界で最も有名な市民(ブルジョワ)革命のひとつで、「自由・平等・友愛」というスローガンのもと、民衆の力で絶対君主制・封建体制を倒し、新たな近代国家体制を築くきっかけとなった一方で、独裁と恐怖政治により多くの犠牲者を出したことから、革命はフランス人にとってプラス面よりもマイナス面が大きかったと主張する人さえあり、フランスの人々の中に今も修復できない亀裂を残しているという。
本書は、そのフランス革命を、偉大と悲惨の両面を持たざるを得なかった(独裁と恐怖政治は不可避であった)劇薬になぞらえ、考察したものである。必ずしも時系列とはなっていないが、劇薬の効果と痛みという視点から整理・説明されており、フランス革命のポイントを掴むのに有用である。
大まかな論旨、私が印象に残った点は以下である。
◆仏革命の解釈には、前半は良かったが後半に悪くなったとする「革命二分説」と、ひとつの塊と考える「革命ブロック説」があるが、著者は後者を採用する。
◆仏革命に劇薬が用いられた背景は、①古い体制(身分制、領主制、絶対王政)の行き詰まりが深刻で、対外的にはイギリスに劣位になっていたこと、②徹底的に変革を求めて、劇薬の使用を要求する人々が革命の担い手になったことである。
◆仏革命は、貴族、ブルジョワ、大衆(民衆と農民)という3つの社会層の担った3つの革命の複合体である。1787年を始まりとする革命は、貴族寄りのブルジョワ(+貴族)vs大衆寄りのブルジョワ(+大衆)、大衆寄りのブルジョワの中のジャコバン派(左翼・急進派)vsジロンド派(右翼・穏健派)、ジャコバン派の中の左派(エベール派)vs右派(ダントン派)という、いくつもの対立(その結果の追放・処刑)を経て、勝ち残ったロベスピエールも94年にクーデターで処刑され、混乱の中で99年にナポレオン独裁政権が生まれて終わりを告げた。
◆革命の中で制定された93年憲法では、直接民主制、人民の蜂起の権利の容認、生存権の優位などの原理が取り入れられた。同憲法はその後の混乱で実施されることはなかった(実施・定着したのは第三共和政下の1875年以降)が、人々の意識の変化により新しい政治文化が成長し、それはフランスの重要な遺産となった。また、この過程で、穀物価格の談合の禁止、領主的諸権利の無償廃棄などが実現した。
◆他国との比較では、仏革命は、大衆が主役となり、デモクラティックな(平等を目指す)変革であった代わりに、恐怖政治に苦しんだ。イギリス革命(17世紀のピューリタン革命と名誉革命)は、大衆は脇役であり、リベラルな(自由を目指す)変革であった代わりに、デモクラシーの達成を先延ばしにした。日本の明治維新(19世紀)では、ブルジョワも大衆も成熟しておらず、武士による「上から」の改革が行われ、殖産興業と富国強兵の影で、基本的人権の保障がなおざりにされた。
◆仏革命は、指導者も大衆も含めて、偉大でもあり悲惨でもある人間たちがあげた魂の叫びであり、巨大な熱情の噴出であったといえる。人間が(個人でも集団でも)その全人格を傾けて、ある目的のために身を捧げるという情念がなければ、世界史ではどんな偉大な事業も成し遂げることはできない。
フランス革命を劇薬になぞらえ、その効果と痛み、偉大と悲惨を考察した好著である。
(2021年10月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年10月20日
読了日 : 2021年10月20日
本棚登録日 : 2021年10月8日

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