ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領 (角川文庫)

  • KADOKAWA (2016年3月24日発売)
3.14
  • (9)
  • (22)
  • (24)
  • (13)
  • (8)
本棚登録 : 559
感想 : 37
4

2012年6月にブラジルのリオで開かれた「持続可能な開発会議」で“伝説のスピーチ”を行い、大統領らしからぬ質素な暮らしぶりも相まって世界的に一躍有名になった、前元ウルグアイ大統領のホセ・ムヒカ氏(大統領在任は2010~2015年)について、ウルグアイのジャーナリスト2人が19年に亘り密着取材をしてきた記録である。
有名な“伝説のスピーチ”は、「私たちは発展するためにこの世にやってきたわけではありません。この惑星に、幸せになろうとしてやってきたのです」、「貧乏とは少ししか持っていないことではなく、無限に多くを必要とし、もっともっとと欲しがることです」、「今の地球の危機の原因は、環境の危機ではなく政治の危機なのです」というものだが、本書を読むと、これがムヒカ氏の思想の根底にあるプラグマティズム・現実主義から来ているものであることがよくわかる。
ムヒカ氏は、1935年にモンテビデオの貧困家庭に生まれ、1960年代に入って極左ゲリラ組織トゥパマロスに参加し、治安当局とゲリラ組織との抗争、労働組合の政治への反発等の時代背景の中で、4度の逮捕(うち2回は脱獄)を経験する。4度目に逮捕された際には(1972年)、軍事政権が終わるまで13年近く収監されていた。出所後はゲリラ仲間と左派政治団体を作り、1995年にトゥパマロス出身で初の下院議員に当選し、2005年にはバスケス政権で農牧水産相として初入閣。そして、2010年に大統領となった。
本書は、所謂“伝記”ではないため、ムヒカ氏の過去の波乱に富んだ人生が時系列で書かれているわけではなく(特に、ゲリラ時代の記述は殆どない)、また、同国のジャーナリストによるものであるため、国内や南米の政治の話題が多い点は残念だが、それでも、19年に亘って築いた信頼関係に基づいて著者たちが描くムヒカ像からは、既成の政治家にはない魅力が十分に感じ取れる。印象に残る発言は以下のようなものである。
「イデオロギーで政治をしてはならない。大事なのは、現実を生きている人の生活が良くなることなのだ」
「私がいつも言っているのは、「自分の考えに従って暮らそう。そうしなければ、暮らしぶりに合わせて物事を考えるようになってしまう」ということだ」
「私は貧しいのではない。質素なのだ。私は自由でいたいし、その自由を楽しむ時間が欲しい。貧しいのは誰だって嫌さ。節度を持って暮らし、身軽でありたいと思っているだけだ」
「教養が与えてくれる知識の役割というのは、間違いなく、よりよい人生に向けて私たちの目を開いてくれることだ。・・・目が開くと不安が生まれることにもなるが、これまでよりも生きているという実感が得られる。・・・知識が増えれば増えるほど、自分が虫けらのようなちっぽけな存在に感じられる」
ノーベル平和賞の候補にもなった“異端児”政治家の魅力が存分に味わえる一冊。
(2016年5月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年5月4日
読了日 : -
本棚登録日 : 2016年4月23日

みんなの感想をみる

ツイートする