進化論はいかに進化したか (新潮選書)

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  • 新潮社 (2019年1月25日発売)
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更科功(1961年~)氏は、東大教養学部卒、(民間企業を経て大学に戻り)東大大学院理学系研究科博士課程修了の生物学者。東大総合研究博物館研究事業協力者、明大・立大兼任講師。専門は分子古生物学。進化論、生物学に関する一般向け著書多数。
本書は、ダーウィン及び進化論に関して、そもそもダーウィンの考えを間違えて理解している、或いは、現在の進化生物学とダーウィンの進化論が異なることを知らないなどの理由により、多くの誤解を受けているとの認識のもと、(第1部)ダーウィンを中心にして、誤解されやすい進化の学説について、(第2部)生物の進化の歴史において、誤解されやすいポイントについて、解説したものである。
章立ては以下の通り。
<第1部:ダーウィンと進化学> 1章:ダーウィンは正しいか、2章:ダーウィンは理解されたか、3章:進化は進歩という錯覚、4章:ダーウィニズムのたそがれ、5章:自然選択説の復活、6章:漸進説とは何か、7章:進化が止まるとき、8章:断続平衡説をめぐる風景、9章:発生と獲得形質の遺伝、10章:偶然による進化、11章:中立説、12章:今西進化論
<第2部:生物の歩んできた道> 13章:死ぬ生物と死なない生物、14章:肺は水中で進化した、15章:肢の進化と外適応、16章:恐竜の絶滅について、17章:車輪のある生物、18章:なぜ直立二足歩行が進化したか(Ⅰ)直立二足歩行の欠点、19章:同(Ⅱ)人類は平和な生物、20章:同(Ⅲ)一夫一婦制が人類を立ち上がらせた
私はこれまで進化生物学に関する何冊かの本を読んできたものの、著者が懸念する通り、ダーウィンの考え、ダーウィン後の進化論の進展、対立する学説の位置付けなどが整理できず、本書を手に取ったのだが、理解を深めるために以下のような説明が役立った。
◆『種の起源』の主張は以下の3点。①多くの証拠を挙げて、生物が進化することを示したこと、②進化のメカニズムとして「自然選択」を提唱したこと、③進化のプロセスとして「分岐進化」を提唱したこと。
◆ダーウィンの提唱する「自然選択」とは以下の3点を指す。①同種の個体間に遺伝的変異(子に遺伝する変異)がある、②生物は過剰繁殖をする(実際に生殖年齢まで生きる個体数より多くの子を産む)、③生殖年齢までより多く生き残った子が持つ変異が、より多く残る。そして、現在の進化生物学では、自然選択の働き方には大きく「安定化選択」と「方向性選択」があると考えるが、ダーウィンの考えは後者に当たる。
◆ダーウィン(1809~1882年)の死後、1908年に発見されたハーディ・ヴァインベルクの定理により、進化のメカニズムには以下の4つがあることがわかった。①遺伝的浮動(集団の大きさが無限大ではないこと)、②自然選択(対立遺伝子の間に生存率や繁殖率の差があること)、③遺伝子交流(集団に個体の移入や移出があること)、④突然変異。この中でダーウィンが明示的に主張していたのは②である。
◆1968年に木村資生は、「分子レベルの進化的変化の大部分は、自然選択に中立またはほぼ中立な突然変異を起こした遺伝子の、遺伝的浮動によって起こる」、即ち「自然選択による進化よりも偶然による進化の方が多い」とする「分子進化の中立説」を主張した。(この中立説は、現在、自然選択説と並立し得るとして多くの進化生物学者に受け入れられているらしい)
第2部の代わりに、第1部のスコープをもう少し広げてもよかったとも思うが(私の疑問の一つだった「マルチレベル自然選択」などについては触れられていなかった)、進化論の歴史と主要論点がコンパクトにまとめられた良書と思う。
(2021年10月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年10月27日
読了日 : 2021年10月27日
本棚登録日 : 2021年10月10日

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