夕陽が眼にしみる (文春文庫 さ 2-10)

著者 :
  • 文藝春秋 (2000年1月7日発売)
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沢木耕太郎(1947年~)氏は、横浜国大経済学部卒のノンフィクション作家、エッセイスト、小説家、写真家。著者が1974~5年に香港からロンドンまでを旅した記録『深夜特急』(発表は1986~92年)は、当時のバックパッカーのバイブル的存在としてあまりにも有名。『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞、『バーボン・ストリート』で講談社エッセイ賞、『凍』で講談社ノンフィクション賞、その他、菊池寛賞等を受賞。
私は、1980年代後半にバックパックを背負って海外を旅し、沢木の作品はこれまでに、上記の各賞受賞作をはじめ、『敗れざる者たち』、『流星ひとつ』、『キャパの十字架』、『旅の窓』、『チェーン・スモーキング』、『世界は「使われなかった人生」であふれてる』、『旅のつばくろ』、『作家との遭遇』、『あなたがいる場所』、など幅広く読み、最も好きな書き手は誰かと問われれば、迷わず沢木の名前を挙げるファンである。
本書は、1993年刊行の単行本『象が空を』の中から、第1部夕陽が眼にしみる*歩く、第3部苦い報酬*読む を収録し、2000年に文庫として出版されたものだが、初出は、「*歩く」が各所に掲載された歩くことに関するエッセイ、「*読む」が各作家の文庫本などに寄せた解説であると思われる。
私は、今般たまたま新古書店で入手し、読んでみた。
本書の内容は上述の通り、小編を寄せ集めたものなので、少々読みにくさはあるものの、私は、上述の通りの沢木ファンであるので、相応に面白く読むことができた。
特に興味深かったのは、私が沢木と並んで好きな書き手である藤原新也と、やはり強く惹かれる近藤紘一について書かれたものである。
藤原新也に対しては、衝撃的なルポルタージュ『東京漂流』に関して、沢木は「一読して、近来これほどスリリングな本にぶつかったことはないという感想を抱いた。肯定も否定も、受容も反発も、そのすべてを含んで、私にとって『東京漂流』は、刺激を受けないページがほとんど一ページもなかった、と言いうるような本だった。」と書いている。私は当然同書を持っているが、解説は池澤夏樹が書いているので、この文章はどこか他のところに掲載されたものだ。
また、近藤紘一については、沢木が『テロルの決算』で1979年の大宅壮一ノンフィクション賞を受賞したときに、『サイゴンから来た妻と娘』で同時受賞したという縁があり、近藤が1986年に45歳で急逝した後に、沢木は、近藤の遺稿を集めた作品集を編集しており、その作品集『目撃者—近藤紘一全軌跡1971~1986』の解説が載っている。近藤紘一の数奇な人生と、司馬遼太郎が弔辞で「君はすぐれた叡智のほかに、なみはずれて量の多い愛というものを、生まれつきのものとして持っておりました」と語った人間性は、やはり興味を惹かずにはおかないものだ。
私は、残念ながらこれまで、沢木耕太郎の講演会やインタビューで語ったところを見たことはない。しかし、自分の関わった光景や人をこれだけ魅力的に書く人が、魅力的でないはずはない。本書の解説でノンフィクション作家の一志治夫は、最初に沢木に会ったときのことを次のように書いている。「新鮮だったのは、沢木さんの作品から得た沢木耕太郎というイメージがあまりにも実物とたがわないことだった。酒に乱れることもなく、正面から人の話をくみとり、言葉を返し、清々しく、姿勢のいい人だった。それは、それまでに会ったどんな先輩ライターたちとも違った。・・・沢木耕太郎は沢木耕太郎だった。それが嬉しかった。」
(2023年12月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年12月4日
読了日 : 2023年12月4日
本棚登録日 : 2023年12月4日

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