世界システム論講義: ヨーロッパと近代世界 (ちくま学芸文庫 カ 39-1)

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  • 筑摩書房 (2016年1月7日発売)
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川北稔(1940年~)氏は、イギリス近世・近代史を専門とする歴史学者。大阪大学名誉教授。
本書は、2001年に放送大学のテキストとして出版された『改訂版 ヨーロッパと近代世界』を改題・改訂し、2016年に出版されたもの。
「世界システム論」とは、米国の社会・歴史学者であるイマニュエル・ウォーラーステイン(1930~2019年)が、1970年代に提唱した巨視的歴史理論である。それは、各国を独立した単位として扱うのではなく、より広範な「世界」という視座から近代世界の歴史を考察するアプローチであり、複数の文化体(帝国、都市国家、民族など)を含む広大な領域に展開する分業体制により、「周辺」の経済的余剰を「中核」に移送するシステムを「世界システム」と呼んだ。その理論は、細部についての批判・反論はあるものの、世界を一体として把握する視座を打ち出した意義やその重要性については、現在も広く受け入れられている。
本書では、概ね以下のようなことが述べられている。
◆近代以前(12~13世紀)の地球には、4つほどの相互に独立した経済圏(=世界)が存在した(ビザンティン帝国~イタリア諸都市~北アフリカの地中海周辺、インド洋~ペルシャ湾岸、中国を中心とする東アジア、モンゴル~ロシアにかけての中央アジア)が、その一方で、のちに近代世界システムの「中核」となる北西ヨーロッパ(イギリス、ベネルクス、北フランス)はいずれの世界にも属しておらず、「周辺」の地位にあった。
◆14~15世紀、封建制の危機(その原因は様々な見解がある)に見舞われた北西ヨーロッパで、危機を脱する唯一の方法として、パイを大きくするために「大航海時代」が始まり、ヨーロッパが主導する近代世界システムの確立への動きが本格化した。当時の技術水準・生産力はアジアの方がヨーロッパより高かったとも言われるが、アジアは一つの経済圏として完結できるシステム(帝国)であったのに対し、ヨーロッパは小国家の寄せ集めで、政治的統合を欠いたシステムであったことから、各国が競って対外進出を図った。
◆「大航海時代」以降、キリスト教徒と香料を求めたポルトガルのアジア進出、スペインのアメリカ進出と世界帝国の形成、オランダによるヘゲモニー(覇権)国家の確立、イギリスのカリブ海・北アメリカにおける植民地の形成、アジアやアメリカからの商品(砂糖など)の流入によるヨーロッパの生活革命、黒人奴隷貿易の展開、イギリスの貧民の移民による北アメリカ植民地の形成、産業革命とフランス革命、ポテト飢饉によるアメリカへの移民の大流入、パクス・ブリタニカ、アメリカとドイツのヘゲモニー争いを背景とした世界大戦などを経て、ヨーロッパ・アメリカは他地域をそのシステムに組み込んでいった。
◆「近代世界システム」には、資本主義の根本原理ともいえる、飽くなき成長・拡大を追求する動機が内蔵されているが、そのシステムが地球のほぼ全域を覆い、新たな「周辺」が存在しなくなった今(帝国主義によるアフリカ分割や、ヘゲモニー争いとしての世界大戦などは、既にその始まりであったが)、過去500年の過程を踏まえて、これからの世界を考える必要がある。
本書が書かれてから更に20年が経過しているが、近年は「持続可能な開発」が国際的なキーワードとして定着しつつあり、明るい材料と言える。ただ、私は、(経済的な側面から見る限り)究極的には資本主義的な発想から脱却することができるかが、長期的にこの問題を解決する唯一のカギではないかと思うのだ。
著者が言う通り、過去を知ることは基本である。そして、残された時間が少ない今、我々に求められているのは、これからの世界をどのように方向付けていくのかを真剣に考えることである。
(2020年9月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年9月24日
読了日 : 2020年9月24日
本棚登録日 : 2020年5月31日

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